文化認識論

(世界を記述する。Since July 2016)

No. 40 心の機能(感情、感覚、直観、思考)

人間関係というのは、なかなか厄介なものです。気の合う人もいれば、そうでない人もいる。意気投合したと思っていても、後になって、全く違うことを考えていたことに気づいたりすることもあります。異性とのコミュニケーションに疲れ果ててしまうこともある。「この人は、何故、こんなことすら分からないのだろう?」などと思ってしまうこともありますね。そうなんです。そういうものなんですね、人間同士というのは。しかし、そこにはきっと、理由がある。かつて、そう考えたユングという心理学者がいて、彼は1921年に「タイプ論」という本を出します。今から、95年も前の話です。私は、「タイプ論」自体は読んでいませんが、その解説書には、大変影響を受けました。それが「ユングの性格分析」(文献1)という本です。この本の初版は1988年なので、28年前ということになります。何を今さらそんな昔の話をするのか、と思われるかも知れません。しかし、私が現役のサラリーマンだった頃、コーチングに関する外部セミナーを受けたのですが、そこで説明された人間の性格分類が、ユングのタイプ論と全く同じだったんです。わずか3~4年前の話です。そう、ユングの「タイプ論」は、今でも生きている!

では、少し「タイプ論」の中身を見てみましょう。まず、ユングは人間の性格を大まかに外向性と内向性に分けています。外向性について文献1では「自分の外にある対象に大きな価値観を認め、それとの関係をなめらかにしようとするような態度」であるとしています。他方、内向性については「自分の内なる意志を優先させ、身体的な衝動よりも、無形の精神力の強さを主張する」考え方であると説明しています。そして、それらが更に、感情、感覚、直観、思考の4タイプに分かれる。よって、2×4で、合計8つのタイプがあるとしています。加えて、前述の4タイプのどれかが主要機能だとすると、それを補うための補助機能が存在する場合もある。また、同じ傾向を持った人同士の方が、コミュニケーションが円滑に進みやすい。

以上が「タイプ論」のポイントですが、8つのタイプに分類するというのは、いかにも数が多すぎる。ここでは、感情、感覚、直観、思考の4タイプに絞って、私見を紹介致します。但し、個々のタイプに優劣はない、と私は考えています。

感情: このブログでは、恋愛、結婚から子育てに至る一連の行動を“種族保存行為”と呼んでいますが、この行為を支える最も重要な心の機能が“感情”です。例えば、スーパーなどで、床に転がって泣き叫んでいる子供に対処できるのは、わが子を思う親の感情以外にありません。感情タイプの人には、他人の気持ちに配慮し、スムースな人間関係を維持しようとする融和的な傾向があります。このタイプに女性が多いのは事実だと思いますが、男性の中にも少なからず存在します。キーワードは、「好きか、嫌いか」。イメージからすると、全体の4割がこのタイプに属するというのが、私の実感です。

感覚: いわゆる五感のすぐれたタイプの人。例えば、味覚に優れた調理人とか、美意識に長けたデザイナーなどが、このタイプだと思われます。芸術を鑑賞する能力は、この感覚によっている部分が大きいように思います。キーワードは「美味しいか、美しいか、楽しいか」。全体の3割がこのタイプ。

直観: 良く言えば、閃きのある人。悪く言えば、思い付きで行動する人。全体的な事柄については良く把握しますが、そのディテールはあまり見ていない。また、このタイプの人は、何故そうなるのか、説明するのは苦手だと思われます。芸術家には、このタイプが多い。例えば、ジョン・レノンもそうだと思います。“ベッドイン”だとか“ドングリ”だとか、とにかく閃くんです。キーワードは、「閃き」。全体の2割がこのタイプ。

思考: 何事もロジックで考えようとする人。何故そうなるのだろうか、本当にそうだろうか、と考える。良く言えば熟慮の人、悪く言えば融通の利かないカタブツ。一般にこのタイプの人は、異性にモテないという難点があります。経験を積んだ弁護士や、経済学者などは、このタイプが多いものと思われます。キーワードは「ロジック」。全体の1割がこのタイプ。

ところで先日、テレビで“動物心理学”の講座があったのです。へえ、そんな学問もあるのかと驚きつつ眺めていたのですが、面白い話がありました。動物というのは、基本的には本能に従って行動します。しかし、本能の種類は沢山ある。では、ある瞬間どの本能を取り出すかというと、ある外的な要因があって、それが特定の本能を解放するそうです。その要因をリリーサーと呼びます。何か、人間にも当てはまるような気がしませんか。人間の心にも、感情、感覚、直観、思考という引き出しがある。そのうちのどれかが、外的な要因によって、解放される。または、外的な要因によって抑圧される。抑圧が強すぎると、心理的な障害が生ずる。換言すれば、抑圧されている心の機能を解放すると、心理的な障害は回復に向かう。ジョン・レノンがプライマル療法を受けた時に「泣く。それで全て済む」と言っていたのは、このことではないでしょうか。人間は誰しも感情、感覚、直観、思考、これらの引き出しを持っている。大切なことは、人それぞれの素質に従って、バランス良く4つの機能を働かせることなのかも知れません。

文献1: ユングの性格分析/秋山さと子講談社現代新書/1988年