文化認識論

(世界を記述する。Since July 2016)

No. 42 クジラと人間

唐突ではありますが、皆様は、クジラについて考えたことがあるでしょうか。ちょっと経緯があって、私はクジラがとても好きなんです。

まずは、クジラの話から始めましょう。大別すると、クジラには2種類あります。大型のクジラはヒゲジラと言って、歯がありません。歯の代わりに髭のようなものが生えているのです。彼らは大量の海水と共にオキアミという小型のエビのような生き物を飲み込みます。そして、海水を吐き出す訳ですが、その時に髭の部分にエビが引っ掛かって、海水だけが口の外に出ます。他方、小型のクジラには歯が生えています。イルカもクジラ目の一種です。

クジラに惹かれる理由には、まず、その大きさがあります。1番大きいのはシロナガスクジラですが、最大で全長33メートル、体重190トン前後のものがいたとの記録があるそうです。2番目に大きいナガスクジラでも、全長25メートル位あります。彼らは、世界の海を周遊していますが、冬の時期は赤道近くの温かい海で出産、子育てなどをして暮らします。そして、夏になると主に南極方面へ移動します。そこで、大量のオキアミを食べる訳です。オキアミが採れないシーズン8か月、ヒゲクジラは断食をして暮らすそうです。

しかし、私にとってクジラの最大の魅力は、そのコミュニケーション能力にあります。南氷洋では、氷に覆われている海域が変化します。そのため、オキアミが大量に発生する場所も、年によって異なるのです。前年の発生場所とは数百キロも離れた場所に、オキアミの大群が発生することもあるそうです。しかし、そこには必ずヒゲクジラがやって来る。では、彼らはどうやって、その場所を突き止めるのでしょうか。その理由は、最初にオキアミの大群を発見したクジラが、他のクジラに知らせている、とする説があります。

また、小型のクジラの繁殖地は判明しているようですが、ヒゲクジラのそれは、未だに分かっていないようです。特定の繁殖地を持たないものと考えられています。では、オスとメスは、あの広い海の中で、どのように出会っているのでしょうか。地上と違って、海の中には高低差がある訳で、丁度適齢期の相手方を探し出すのは至難の業です。コミュニケーションを取っているとしか、考えられないのです。その方法はと言うと、“声”なんです。あの大きな体だからこそ発することのできる低周波の声は、1600キロ離れた場所で、人間がキャッチすることに成功したという例があります。また、今のように海中に船舶の雑音が響いていなかった時代であれば、理論上、ナガスクジラの声は、6500キロ先まで届いていたとする説もあります。ちょっと、凄くないですか? 海中ですからちょっと潜れば暗くなってしまう。そんな暗がりの中で、ヒゲクジラは仲間の声に耳を傾けている。彼らは、仲間と共に生きているのです。彼らは人間が携帯電話を発明する何万年も前から、そうやって連絡を取り合ってきたのです。

また、皆様も、水族館のイルカショーをご覧になったことがあると思います。よって、イルカの知能が高いことに疑いはないと思います。また、自閉所の子供がイルカと戯れることによって、回復に向かうことも知られています。クジラって、凄いと思うのです。しかし、その実態は、まだまだ分からないことだらけのようです。

こう考えて来ますと、おのずとシー・シェパードの主張に興味が向かいます。そこで、彼らのホームページを調べてみました。彼らが捕鯨に反対する主な理由は、2つあるようです。1つにはクジラの知性が高いこと。知性の高い生物を殺戮するのは残酷である、ということです。2つ目は、生物の多様性を維持すべきだということです。

では、捕鯨国である日本は、それらの主張に対してどう考えているのか。これは水産庁のホームページに記述がありました。知性の高い動物を殺すなという主張に対する明確な反論はありませんが、「クジラは特別な生き物である」という主張に対しては、「全ての生き物は特別である」という反論になっています。これはちょっと詭弁のような気がします。次に生物の多様性を維持すべきだとの主張に対しては、「科学的な統計に基づいて捕獲量を決めている」との反論になっています。

ちなみに和歌山県太地町では、今でもイルカの“追い込み漁”を行っています。漁船でイルカの群れを狭い入り江に追い込む。そして、網を巡らせてイルカを追い込み、最後は潜水服に身を包んだ人間が、イルカを殺す、または捕獲するというものです。この様子はシー・シェパードのホームページに動画が掲載されています。みるみるうちに、イルカの血で入り江が真っ赤に染まっていくのです。ショッキングな画像で、目を被いたくなります。採ったイルカは人間が食べるか、ショー向けに水族館に販売されています。

思うに日本の立場は、一部賛成しかねる部分はあるものの、一応、ロジックで説明されている。対するシー・シェパードに代表される国際世論は、感情に基づいているように思います。そろそろ日本も感情に基づく国際世論に従うべき時期ではないでしょうか。