文化認識論

(世界を記述する。Since July 2016)

No. 111 文化のダイナミズム(その1)

前回のシリーズでは、結局、遊びとは何か、それを定義づけることができませんでした。その理由は、古代まで遡ってみると遊びと仕事を区別することができなかったからです。例えば、狩猟採集民が野ウサギを捕まえたとします。面白いので、これに紐を付けてしばらく飼ってみた。やがて、野ウサギに飽きてしまい、これを食べてしまった。では、この野ウサギを捕まえるという行為は、遊びだったのか、仕事だったのか。どちらとも言えないのではないでしょうか。そもそも、飛び跳ねる野ウサギを捕まえるという行為自体が、楽しくもあり、仕事でもあったと考えるべきだと思うのです。

 

そうしてみると、遊びという枠組みで考えるのではなく、本質的には、別の枠組みで考えるべきではないのか。そこには遊びという概念を超えて、文化が誕生する仕組み、その秘密が隠されているのではないか。そして、次の結論に至った次第です。

 

1.(出会い)未知なる“何か”と出会う。

2.(好奇心)好奇心が触発される。

3.(働きかけ)創意工夫を凝らし、その未知なる“何か”に働きかけてみる。

4.(秩序)新たな秩序を設定し、その未知なる“何か”に意味を付与し、理解する。

5.(伝播)新たな秩序は、記憶され、伝播する。

 

少し、補足致しましょう。まず、未知なる“何か”ということですが、これは物体であることもあるし、何らかの仕組みであったり、動物や他人であったりすることもある。すなわち、人間の好奇心が触発される全ての事柄を意味します。これは、動物心理学で説明している“リリーサー”(特定の本能を解放するきっかけとなる外的な事象)という意味です。この仕組みは、人間にも当てはまるように思うのです。次に働きかけですが、これはその“何か”と自分との関係性を構築しようとする行為であるとも言えます。そして、秩序と言っているのは、例えば遊びのルールであったり、その“何か”を加工する方法であったり、文化の様式であったりする。様々な場合がありそうなので、最も概念が広いと思われる“秩序”という言葉を採用しました。秩序が設定されると、その中で“何か”の役割のようなものが明確になり、“何か”に意味が生ずる。意味が生まれれば、それを理解することができる。理解してしまうとその“何か”は、既に未知ではなくなってしまう。但し、その新たな秩序は、伝播する。伝播の形態としては、世代を超える時間的な広がりと、地域的な広がりがある。まだ、分かりにくいですね。

 

では、具体例でご説明しましょう。まずは、ビー玉の例にて。

 

1.(出会い)ビー玉に出会う。

2.(好奇心)綺麗だな、面白そうだなと思って、好奇心が触発される。

3.(働きかけ)触ってみる、転がしてみる、指で弾いてみる。

4.(秩序)地面に穴を掘って、そこを目指して指で弾くという遊びのルールを作る。ルールに従って遊んでいると、ビー玉は遊び道具として理解される。

5.(伝播)日本中、ビー玉自体は同じものだが、遊び方のルールは誤解されたり、簡略化されたり、工夫されたりして、変容しながら伝わっていく。

 

次は、ジャズの場合。

 

1.(出会い)白人の軍楽隊が捨てた楽器に、黒人が出会う。

2.(好奇心)見たこともない楽器に、興味を持つ。

3.(働きかけ)いろいろいじって、音を出してみる。

4.(秩序)白人の音楽を真似て演奏しているうちに、独自のフォービートが生まれ、ジャズという音楽様式が生まれる。

5.(伝播)ジャズは全米に広がり、遂には世界中に伝播する。

 

ファッションの起源。

 

1.(出会い)古代人が、美しい動物、例えば鳥と出会う。

2.(好奇心)自分たちとは随分違った形をしているし、何より、空を飛べるのは凄い。そう思って、好奇心が喚起される。

3.(働きかけ)鳥の鳴き声を真似てみる。動作を真似てみる。捕まえてみる。

4.(秩序)鳥の羽をヒモでくくって、帽子のように被ってみる。鳥と自分との特殊な関係性が作られ、その意味を理解する。(例えば、自分たちの民族の起源は、その鳥だったという物語を作る場合もあります。これが、トーテミズムとなります。)

5.(伝播)動物の何かを使って着飾るという様式が伝播し、やがて、ファッションへと進化する。

 

こんな例は、いくらでも思いつきます。言葉の場合。

 

1.(出会い)ある家庭で、子犬を飼う。

2.(好奇心)かわいいので、好奇心が喚起される。

3.(働きかけ)触ってみる。餌をやってみる。鳴き声を真似てみる。

4.(秩序)その一家の中では、犬の鳴き声を「ワンワン」と表現するという秩序が生まれ、やがて、その子犬を「ワンワン」と命名する。「ワンワン」と呼ぶことで、すなわち、言葉にすることで、犬という動物の意味を理解する。

5.(伝播)かかる慣習が伝播し、日本で「ワンワン」と言えば、犬を指すことになる。

 

上記の5つのステップによる文化の発生システムを、このブログでは、「文化の基本原理」と呼ぶことにしましょう。しつこいようですが、もう一例。仮に古代の狩猟採集民のAという部族が、木の先端を削って、ヤリを作ったとします。部族Aでは、それはもう完成された様式であって、そのヤリは人々の好奇心を喚起するリリーサーたりえなくなったとします。しかし、そのヤリを森の中で部族Bの誰かが拾ったとします。その人にとっては、生まれて初めて見るものなので、リリーサーとしての役割を持つことになります。

 

1.(出会い)森の中で、木のヤリを拾う。

2.(好奇心)先端が尖っていて、誰か人間が手を加えているように思える。そして、好奇心が沸いてくる。

3.(働きかけ)持ち上げてみる。投げてみる。これは、狩りに使えそうだと思う。そして、ヤリの先端に毒を塗ってみる。

4.(秩序)ヤリの先端には毒を塗るという新たな秩序が生まれる。

5.(伝播)新たな秩序が、次の世代へ、他の部族へと伝播する。

 

このように考えますと、文化の基本原理というのはシンプルなものですが、無限と言っても過言ではない程、拡大していく可能性を持っていることが分かります。もしかすると私たちホモサピエンスは、その20万年の歴史を通じて、この原理に従って遊び、文化を紡いできたのではないでしょうか。そのことを私は、文化のダイナミズムと呼びたいと思うのです。

 

なお、今回のシリーズ“文化のダイナミズム”におきましては、文化の構造に迫りたいと思っています。予め私の考えを図にしましたので、添付します。

 

f:id:ySatoshi:20170605161904j:plain

 

以上