文化認識論

(世界を記述する。Since July 2016)

No. 120 ロジックとバイアス

安倍総理蕎麦屋に入る。すると店員が、尋ねる。「モリですか、カケですか?」。安倍総理が慌てて退散する。そんなマンガが、世間では話題になっているそうです。

 

籠池さんは100万円を返却しに、明恵夫人の経営する居酒屋を訪ねましたが、店員に怒鳴り返されたようです。不謹慎かも知れませんが、思わず笑ってしまいました。

 

「この、ハゲー!」 これは自民党の豊田議員ですが、ここまで来ると、プロレスの場外乱闘を彷彿とさせます。それにしても、この絶叫には驚ろかされました。人間にはこんなエネルギーがあるんですね。

 

笑ってばかりもいられません。これらは、落語の世界ではなく、日本の政治状況なんです。ああ、こんな日本に誰がした! そうボヤキたくなるのは、私だけでしょうか?

 

さて、昨日、元、文科省事務次官の前川氏が会見を開きました。2時間程ありましたが、私はこれをネットで見ました。YouTubeと言うのか、インターネット・テレビと言うのか分かりませんが、とにかくこういうコンテンツをフルバージョンで見ることができる。今のIT技術というのは、本当に素晴らしいと思います。私の場合、地上波のニュース番組や討論番組を見る機会は減りました。ネットであれば、興味のあるトピックスを、好きな時間帯で見ることができる。それに比べて、地上波の番組というのは、時間の制約もあって、掘り下げが浅いと感じるのです。ネットが、政治を変える。きっと、そうに違いありません。一般の国民が接することのできる政治関連の情報というのは、過去とは比較にならない程、豊富になっている。そして、ディテールまでが正確に伝えられるようになった。例えば、前川氏が発言する時の声の調子だとか、顔色だとか、そういうことまで分かる。この人、嘘をついているようには見えないなとか、そういうことまで伝わるんです。

 

脱線してしまいました。前川氏の会見に戻りますと、私としてはこれを見て、ちょっと爽やかな気分になったのです。それは前川氏が、自分が知っている事実と推測を明確に分けて説明されていたからです。自分が知っている事実は、これとこれだ。これらを組み合わせると、こういう推論が成り立つ。そういうロジックを組み立てて説明されていた。その真摯な態度が、爽やかだった。

 

一方、ロジックと言いますか、論理的な思考を妨害する要素というものもあります。これを何と言うのか。バイアスと言うのではないか。そう思って、広辞苑を引いてみますと「斜め、偏り、偏向」と出てきます。英和辞典によれば、「先入観、偏見」とありました。ちょっとイメージが違いますが、他に適当な言葉が見つからないので、ここでは「論理的な思考を妨害する要素」の全てをバイアスと呼ぶことにしましょう。例えば、以下の菅官房長官の発言が、バイアスだと思うのです。

 

1.       前川氏は、出会い系バーに通っていた。

2.       前川氏は、事務次官の地位に恋々としていた。

3.       あの怪文書みたいなもの

 

そう言えば、最近、菅官房長官の定例記者会見が、大変、盛り上がっているのをご存じでしょうか。東京新聞社会部、美貌の女性記者、望月氏という方が、加計問題を厳しく追及しているのです。この方は、空気を読まない。菅官房長官の意向を、全く“忖度”しない。ひたすら、加計問題の疑惑を追及するんですね。ネットや週刊誌でも、話題になっています。望月氏が、加計問題を徹底的に追及すると、別の記者が他の話題に振るのですが、その後も望月氏が「すいません。加計の件ですが」とまた畳み掛けるんです。その状況も、逐一、ネットで配信されています。最初は「ここまでやるのか?」とも思ったのですが、そこまでやっていいんだ、と今では感じています。加計問題というのは重大な政治課題であって、菅官房長官が偉い人だとか、年上だとか、そういうことはバイアスに過ぎないのではないか。国会が閉会した今、菅官房長官の定例会見というのは、メディアが政権と直接対峙できる重要な機会ではないか、と思うのです。そう言えば、望月氏を紹介する上記の「美貌の」という記載、これもバイアスでした。

 

前川氏は、組織の表も裏も知り尽くし、その上でバイアスを排除するという心理的な境地に到達したのだろうと思います。一方、望月氏はまだ若い。若いからこそ、無用のバイアスを排除する勇気を持ったのではないか。そんな気が致します。いずれにせよ、まだ数は少ないものの、こういう人たちが現われつつあるというのは、心強く感じます。

 

ところで、法律上、証拠というのは3種類あるんです。書証、人証、物証(物的証拠)です。加計問題に照らして言えば、文科省などから書証が出て来ました。また、前川氏が会見を開いて証言している訳ですから、人証も出ていることになります。残るのは物証ということになります。これは総理が発言をしている場面のビデオだとか、録音ということになりますが、事案の性質上、そんなものがある訳はありません。しかし、疑うに足る推定証拠は出揃っている。こういう場合、民事訴訟であれば、官邸側がそれらの書証、人証を覆すだけの立証責任を負う。これを「間接反証」と言います。本件は民事ではなく、行政上の問題ではありますが、官邸側は反証する責任を全うするべきだと思います。その方法は、決して難しいものではありません。石破4条件などに照らして、加計学園を認可するという行政上の判断が、適切なプロセスに従ってなされたことを証明すれば良い。それだけではないでしょうか。