文化認識論

(世界を記述する。Since July 2016)

No. 128 集団スケールと政治の現在(その2)

 

(集団スケール一覧/本稿に関係する部分のみ)
1. 個人
2. 血縁集団
3. 帰属集団

プライドと呼ばれるライオンの集団は、血縁集団であって、ライオンの社会にそれ以上大きな集団はありません。しかし、人間の社会は違う。いくつかの血縁集団が集まり、また、地域的なつながり、職業的なつながりが付加され、もう少し大きな集団が構成されている。このような集団の本質は、その構成員である個人が、その集団に帰属していることを強く意識している、若しくは強く望んでいるという点にあると思うのです。また、集団の側はその構成員である個人に対し、集団のルールや価値観を遵守し、その集団に帰属することを求めている。よって、このブログでは、このような集団を“帰属集団”と呼ぶことに致します。このブログのNo. 84~No. 88に掲載しました“共同体と個人”というシリーズ原稿がありましたが、そこで言っていた共同体とか、No. 125の原稿に記載しました“スモール・ユニット”というのは、この帰属集団と同じ意味です。

帰属集団の規模については、“顔と名前が一致する程度”、ということにしたいと思います。それ以上大きな規模になると、帰属意識が希薄になると思うからです。

社会学者の宮台真司氏は、概ね、次のように述べています。「人間は、狩猟採集を行っていた時代、多くても150人程度の集団で行動していた。そして、その時代は長く続いた。よって、本来、人間が仲間意識を持てる人数は、150人程度が限界である。しかし、この規模の集団が解体され、人間の仲間意識が衰退したのが、現代である。この規模の集団と人間の仲間意識を復活させるべきだ」。

人間集団の規模に着目している点では、本稿に類似していますね。また、“多くて150人”という表現は、私がここで述べようとしている“帰属集団”と同サイズだと思います。更に、この規模の集団が解体されていったという点は、私が“共同体と個人”で述べた内容と同じです。よって、宮台氏の考え方というのは、私の認識と似ている。似てはいるのですが、ちょっと違う。歴史という名の時計の針は、決して戻せない。これが私の持論です。

さて、確かに現代においては、既に解体されつつある帰属集団ですが、その本質を少し見ていきましょう。まずは、マサイ族の話。

マサイ族はアフリカのサバンナで暮らしている無文字社会の部族で、多分、何万年にも及ぶ期間、ライオンと戦ってきたんだと思います。そして、現代に生きるある日本人女性が、マサイ族の男性と結婚した。マサイ族も一夫多妻制で、この女性は、確か第二夫人になったようなことを言っていました。かつて、地上波で放送された番組がYouTubeにアップされていたんです。ちょっと、私の記憶に曖昧なところもあるのですが、彼女はこんなことを言っていた。特に祭祀の時など、マサイ族の兵士は美しく着飾る。しかし、その装飾品やイレズミには意味があって、例えば、あるイレズミはライオンを倒したことのある男だけに許されている。

番組を見た時には、そんなものかなあと思っていたのですが、今は、その理由が分かるような気がするのです。私の想定は、次の通りです。

最近では、マサイ族の武力が向上し、ライオンよりも強くなった。しかし、過去においては、その武力が拮抗していた。多くのマサイ族がライオンに食い殺されてしまった。マサイ族は、ライオンを怖れた。そこで、マサイ族の帰属集団は、一つの価値観を持った。すなわち、“ライオンを殺すことは、名誉なことである”と。そして、帰属集団の側は、ライオンを殺すことに成功した兵士に、報酬を与えることにした。それがイレズミである。このイレズミを許されるのは、帰属集団の利益に貢献した男だけなのだ。このイレズミは、彼が一人前の兵士であることの証明となり、彼は周囲の男たちから尊敬され、帰属集団の女たちから愛される。

一見、なんともハッピーエンドな物語のようですが、そうでしょうか。マサイ族はライオンとヤリで闘う訳ですが、その射程距離は、せいぜい10メートル程度ではないでしょうか。そこまで、百獣の王ライオンに近づかなければならない。マサイ族の兵士だって、それは怖いはずです。怖いから、本当は誰もやりたくない。だから、報酬制度が必要だった。マサイ族の男は、まだ幼い頃から、そういうスリコミを受けているのだと思います。“お前もいつか一人前の男になったら、ライオンを倒さなければならない。それは、名誉なことなんだ”と。ここには明らかに、個人と帰属集団の利益相反がある。

ちなみに現在ではライオンの数が激減し、白人がマサイ族に対し、ライオンを殺してはいけないという教育を行っているようですが、それでも、ライオンを殺そうとするマサイ族の男が後を絶たないようです。