文化認識論

(世界を記述する。Since July 2016)

No. 143 対米従属と憲法9条(その1)

少し前の原稿で、民族が南北に分断されている韓国は悲惨な状況にあると書きましたが、“文化”という基軸で見れば、日本もそれ程、幸福な状況にある訳ではないと思います。戦後72年もたっていると言うのに、少なくとも軍事的な意味では、日本は未だにアメリカに支配されており、独立できていない。私がそう考える理由をまずは箇条書きで記します。

・北海道から沖縄まで、日本には134か所もの米軍基地があり、51,794人の米軍が駐留している。(2009年3月現在)日本列島は、あたかも米軍の不沈空母のようです。そして、駐留米軍には“日米地位協定”という治外法権が適用されている。
・沖縄の人々が懇願しているにも関わらず、米軍は沖縄から撤退しない。
・日米合同委員会なる組織によって、日本の官僚組織は、米軍から指示を受けている。
・米国の立場を忖度するあまり、唯一の被爆国であるにも関わらず、日本は核兵器禁止条約に参加できなかった。

他にも色々あるでしょうが、上記の4項目だけでも十分ではないでしょうか。そして、自民党政権というのは、対米従属を積極的に容認している。これは、集団的自衛権を規定した安全保障関連法を成立させたこと、北朝鮮問題などでも安倍総理が率先して、アメリカの方針を支持していることなどからも、明らかだと思います。

元来、政治が扱うべき最重要課題は国の安全保障だと思うのですが、この課題について、日本で本格的な論議は行われていないように思います。野党が食い下がっても、政権党や政府は、論理的に反駁することがない。「そんなことを言ったって、現実的に考えれば、アメリカに守ってもらうしか方法はないだろう。まったくもって、野党の連中ときたら、俺たちがどれだけ苦労してアメリカと折衝していると思っているんだ」。これが本音ではないでしょうか。しかし、建前としてそれを言うことはできない。そう言ってしまうと、日本の世論は反米に向かうでしょうし、アメリカから怒られてしまう。本音と建前が解離しているから、ロジカルな論議というものが成立しないのではないかと思うのです。

加えて、日本の右翼も親米であって、これはちょっと奇妙な現象だと思います。本当に日本と日本民族を愛しているのであれば、沖縄へ行って「米軍は出て行け!」と主張しても良さそうなものですが、そういう右翼はいません。このように考えますと、合理的な理由ではなく、相当数の日本人がある種の集団心理に陥っているのではないか、と思うのです。

第2次世界大戦があって、東京大空襲があった。沖縄戦があった。広島と長崎に原爆を投下され、日本人はさんざんな目にあった。日本人はアメリカにコテンパンにやっつけられてしまった。そこで、例えば“触らぬ神に祟りなし”ということになったのではないか。

ちょっと、やけっぱちになって、こんな想像をしてみました。そもそも日本人は、“やおろずの神”を信仰してきた訳で、キツネだって神様になれる。よって、アメリカが神様になれないはずがない。そこで、神様の祟りを怖れた日本人は、自民党という名の神社を建てた。5年程前にその神社に安倍という名の神主がやってきた。今度の神主は、どうも神様の受けが良いようだ。何しろ、あの神様と27ホールもゴルフをやってきたそうだ。神主は彼に限る。モリ・カケなんて、小さなことはどうでも良い。余計なことを言うな。神様の祟りが怖くないのか。さあ、拝め、拝め!

冗談はさておき、4割程度の日本人が、何らかの集団的心理状態に陥っている可能性は否定できないと思います。そして、3割程度が“疎外”されていて、政治に対する興味を失っている。残る3割が、いわゆるリベラルではないでしょうか。

自民党が政権党として築いてきた今日の政治システムというのは、戦後の日本という国家のシステムそのものであるかも知れません。対米従属、経済最優先、官僚支配の許認可制度とメディア統制。ただ、このシステムで、これ以上日本の民主主義が深まることはない。日本の文化が進化することもないと思うのです。日本は、本当にアメリカから独立できないのでしょうか。