文化認識論

(世界を記述する。Since July 2016)

日本のシステム

 

この国に生まれ落ちると、まず、届け出に基づき戸籍が作成される。日本の戸籍制度は、多分、世界的に見ても例を見ない程、精度が高い。官僚の几帳面さがそうさせるのか、それとも家系にこだわるという半ば宗教的な価値観がそうさせているに違いない。やがて義務教育が始まる。この教育制度というのは、初等の段階では文化的な内容を多く含む。歌ったり、絵を描いたりという所から始まり、高等教育に進むにつれ、それは職業訓練的な色彩を強めていく。そのプロセスは、あたかも千差万別の個々人を予め定められた職業のカテゴリーに当てはめて行くことを目的としているように思える。はい、あなたは役人に、あなたは看護師になりなさい。そういう振り分けを行うのが教育というプロセスではないのか。

 

ところで西側諸国の一員である日本においても、格差が拡大している。コロナ禍が、その傾向を助長している。ホームレスが増える、自殺者が増える。そういう現実がある訳だが、何故か、政府は彼らを助けようとしない。私には、そう見えてならない。この寒空に1人、路上に放り出される人たちの気持ちはどうだろう。そういうことを政府は想像していないだろうし、マスメディアもほとんど報じない。これは不作為という問題ではなく、彼らは意図的に貧困者を増加させているに違いない。

 

例えば、この国における唯一とも言えるセイフティー・ネットは生活保護だが、その申請に訪れた人々を、役所は何とか断ろうとする。これは水際作戦と呼ばれている。何故、かくも無慈悲なことをするのか。貧困者を増加させ、一般の国民に貧困という恐怖心を抱かせることを目指しているのではないか。狂っているとしか言いようがない。

 

政府は貧困を意図的に助長している。その前提で考えてみると、思い当たる節がある。結局、一般の国民を貧しくさせておいた方が、権力者にとっては都合がいいのだ。日々の暮らしに精一杯の国民は、本を読む時間を持たない。政治になど、興味を持たない。

 

では、どのような方法で国民を貧しくさせているのか。それは、デフレ政策によるのだろう。「国の負債は国民の借金」という奴だ。私は経済学の門外漢ではあるが、この程度のことは分かる。シンプルに考えてみよう。まず、政府と銀行を除外して、世の中に出回っているお金がある。仮にその額を100万円としよう。そこで、Aさんが銀行から10万円を借りたとしよう。すると、世の中に出回っている金額は10万円増えて、110万円となる。そして、Aさんが銀行に対して1万円の利子を付けて11万円を返済したとする。すると、世の中に出回っている金額は、110万円マイナス11万円で、都合99万円となる。おや、当初の100万円よりも1万円程、少なくなっているではないか。

 

このように誰かが銀行から借金をして、利息を含めてその額を返済するたびに世の中に出回っているお金の総量は減少していく。すると個人消費が冷え込み、企業の業績が悪化する。給料が下がる。そして個人消費が低下するというデフレスパイラルに陥るのである。日本は、この状態を20年以上も続けている。そんな国は、世界中で日本だけなのだ。(ちなみに、昨今では大企業が膨大な金額を内部留保として保持しているため、世の中に出回るお金は、その分、減少している。こんなことで、景気が良くなるはずがない。)

 

では、他の国ではどうしているかと言えば、それは政府が通貨を発行して世の中に供給しているのである。現行の法制度に従えば、政府が国債を発行すれば良いことになる。但し、そこで得た金額を日本銀行にブタ積みしていたのでは意味がないのであって、これを世の中にばら撒く必要がある。その方法は、適切な公共投資でも良いし、コロナ対策として全国民に一律10万円が給付されたが、そのような方法でも良い。政府の借金は国民の借金ではなく、国民の資産なのである。日本政府は借金を返済してはならないのであって、政府の借金は世の中に対する資金供給なのだ。

 

日本政府は通貨発行権を持っているので、世の中にいくら通貨を供給したとしても、返済不能に陥ることはない。但し、過度なインフレは好ましくないので、一応、インフレターゲットの2%が達成される時点が、通貨供給の上限ということになる。

 

このように意図的に貧しくさせられた国民に対し政府が何をするかと言うと、特定の業種、業界を対象に補助金をばら撒くのである。GoToトラベルなどが、その典型である。考えてみると、これは自民党にとってはとても都合の良い施策なのである。まず、キャンペーンで中抜きできる企業が儲かる。キャンペーンで顧客を集めることのできた旅館やホテルが儲かる。そして、キャンペーンを利用した一般国民が喜ぶ。結果として、彼らの多くは自民党に感謝し、自民党の支持率が上がり、次の選挙での集票を期待することができるという訳だ。正に、政府なり自民党にとっては一石三鳥の施策だと言える。

 

悪く例えるならば、日本の一般国民は、釣り堀の魚に似ている。釣り堀の魚というのは、腹が一杯だと客が垂らす針が仕掛けられた餌に食い付かない。だから、常に空腹な状態に保たれている。生かさず殺さずという訳だ。

 

先般、野球場に多くの観客を入れて、どれだけコロナが感染するかという実証実験が行われた。これ、ツイッター上では人体実験だと呼ばれていた。そんなものに参加する人がいるのかと思ったが、プロ野球の格安チケットに多くの人々が集まったのである。正に、飢えた釣り堀の魚と言う他はない。

 

GoToキャンペーンに限ったことではなく、補助金によって世論を操縦するという方法は、幅広く行われている。これは一般に「補助金行政」と呼ばれている。この補助金を得るためにありとあらゆる業界団体が、こぞって自民党に政治献金を行う。

 

年末の忙しい時期にこの原稿を書いていて、私自身、だんだん馬鹿馬鹿しくなってきたが、大切な話だと思うので、もう少しお付き合いいただきたい。

 

これだけ国民を愚弄する政治が行われているにも関わらず、それを告発しようとする者は、何故、かくも少ないのか。そこには、共犯関係に基づく暗黙の掟があるに違いない。例えば、5人で銀行強盗を行ったとする。この5人は、共犯関係にあるので、誰も自首しようとはしない。仮に、良心にかられて自首しようとする者がいたら、他の4人が必死になって止めるだろう。このような、共犯関係が権力者の間には存在するのだと思う。(これは私の説ではなく、何かで読んだ話だ。)

 

マスメディアは、政府と一緒になって「国の負債は国民の借金」という主張を繰り返してきた。読売や産経だけではない。左寄りと言われている朝日や毎日も同じだ。一般に独禁法に基づいて、小売業者が物品をいくらで販売するかということを拘束することは禁止されている。法律上、これを「再販価格の維持」禁止と言う。ところが、新聞はこの法規制の例外として認められているのである。スーパーのお惣菜などは、夜になると値引きされるが、新聞が値下げされたという話は聞いたことがない。消費税についても新聞は、優遇措置を受けている。大手の新聞社はオリンピックを共催しているので、その開催には反対しない。つまり、朝日や毎日だって、権力と共犯関係にある訳だ。テレビの場合は、最近、政権から直接圧力を掛けられているようだが、共犯関係にあることに変わりはない。愚民政策を推進している分、テレビは新聞よりも悪質だと言えよう。

 

加えて、大手メディアの給料が高いのは、ここに理由がある。お互い悪いことをやっているが、それはお前も高額の給料をもらっているのだから同じだろう、という訳だ。NHKの給料が高いのは有名だが、新聞だと読売、朝日、日経の3社が特に高いらしい。高額の給料をもらっているメディア関係者が、本気で政権を批判する訳はないのである。

 

大学も補助金漬けになっているに違いない。ネットで検索するといくつもの記事がヒットする。そして、補助金を受領した大学や教授は、政権に従順になる。御用学者の誕生である。

 

まとめてみよう。

 

日本のシステムは、デフレスパイラルによって、「国民の貧困化」を促進している。

 

貧困に喘ぐ国民は、「補助金行政」によって容易に操縦される。(釣り堀の魚)

 

政府、メディア、学者、大企業などの権力者は、互いに「共犯関係」にあり、真実を語らない。

 

ざっと言うと日本のシステムは、このような関係になっているのだと思う。そして、このシステムの根底を支えるのは、人間は働くべきだとする「勤労主義」にある。勤労主義が、働けない子供や老人、そして身体障碍者の人権を奪おうとする。出産や育児という課題を背負った女性を差別しようとする。また、補助金行政が官尊民卑という価値観を醸成しているに違いない。

 

この馬鹿馬鹿しい日本のシステムを脱却するためには、政権交代が必要だが、それよりも大切なことは、誰かが新しいシステムを考案し、提案し、国民の1人ひとりがそれを受け入れる準備をすることではないか。