現代においても、多くの人々が歌ったり、踊ったり、劇を演じたりしているというのに、人々は何故、その起源を考えないのだろう? その起源はもちろん、古代にある。本稿では、それを原始領域と呼び、その文化形態を祭祀とか呪術、若しくはシャーマニズムなどと表現している訳だ。
人々が考えようとしない理由は、いくつかある。例えば、文化人類学の衰退を挙げることができる。文化人類学は、無文字社会の人々に密着して、その生活様式を報告するという方法に準拠してきた。フィールドワークと呼ばれる作業である。しかし、研究が進み、解明されていない部族が、少なくなってきたという事情がある。研究し尽くしてしまったというのだ。その割に、解けていない謎が多いのは、この学問の方法、すなわち時間軸に従った見方(通時態)を否定した所に理由があるに違いない。
但し、理由はそれだけではないだろう。私のような見方をすると、どの段階にあるかは別として、宗教はどれも同じだという結論に至る。実際、私はそう思っている。これは、一神教の信者にとっては、不都合であるに違いない。そればかりではない。私の説に従えば、アフリカでジャンベのリズムに合わせて踊っている黒人と、欧米でネクタイを締めている白人が、本質的には何も変わらないという結論に至る。むしろ、植民地政策を推進し、奴隷制を支持してきた白人の方が、余程、野蛮だという結論になりかねない。
実際、ヨーロッパにおいては魔女狩りや錬金術などに関わる歴史があるにも関わらず、これらは覆い隠される傾向にあったという説がある。事情は、日本国内でも変わらない。現在、シャーマンとか呪術師と呼ばれる人は、東北のイタコと沖縄のユタ位しか存在しないが、18世紀までは、日本本土の各地にも存在したという説がある。何故、彼らは日本本土から消えたのか。仏教徒が駆逐したに違いないのだ。
キリスト教徒は、激しいリズムやトランスを抑圧し、法律によって麻薬の使用を禁じてきた。しかし、そうして出来上がった現代文明は袋小路に入り込んでしまった訳で、現代において、原始領域を見直そうと考える人々は少なくない。先進諸国において、マリファナ解禁の動きが出ているのもそうだし、スピリチュアルと呼ばれる新しい世界観を構築しようとする試みも、事情は同じだろう。
ところで人間は、記号を通じてしか、対象を認識できないという原理がある。
人間 - 記号 - 対象
この原理に照らして考えると、「祭祀」は人間が認識しようとしていた現実世界を記号化したものではないか、という考えが浮かぶ。そこには動物がいて、人間がいて、物語がある。祭祀とは、人間が作り出した現実世界のミニチュアなのではないか。
人間 - 祭祀 - 現実世界
但し、祭祀が生まれる以前にも人間の歴史がある訳で、一体、どこから先を文化と呼ぶべきかという問題もある。文化と呼ぶには、ある程度、繰り返されるものであって、様式を伴うものである必要があるだろう。してみると文化の起源は、やはり祭祀にあると言って良いと思う。
では、因果関係を軸にした私の歴史観を以下に記してみよう。但し、これは相当程度、私の想像力に依拠している。そんなものに興味はない、という人もいると思うので、私がこのブログを始める直前に作成した「人類年表」と題した文書を末尾に添付することにしよう。こちらは、文献に基づいて作成している。
なお、黒呪術についてだが、例えばアフリカのブードゥー教は、黒人奴隷が作ったという説がある。権力に虐げられた人々が現実世界において復讐することは、叶わなかったに違いない。そこで黒呪術(黒魔術)が生まれたと考えるのが良いと思う。これは、アメリカの黒人奴隷がブルースを作ったのと同じ原理だ。
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私の歴史観
・森林にサルが住んでいた。
・気候変動によって、樹木が消失した。
・サルは大地に降り立った。
・サルは、両手の機能を確保するため、立ち上がり、2足歩行を始める。
・立ったことによって、気道が拡張し、様々な音声を発することが可能となる。
・動物の鳴き声を真似ているうちに、言葉が生まれる。
・動物の動作を真似て、踊りが生まれる。
・踊りからリズムが生まれる。
・リズムに合わせて踊り続けることによって、人間はトランスを経験する。
・トランスによって、人間は動物の世界へ接近することができると考える。
・人間と動物が織りなす世界を演じることによって、「祭祀」が生まれる。
・祭祀によって病気の治療が可能であると考え、「呪術」が生まれる。
・歌っていた女たちが、表音文字を生み出す。
・口頭伝承されていた「神話」が、文字によって表記されるようになる。
・神話が様々な概念と権力を生み出す。
・動的な要素を求めた人間は、「個人崇拝」を始める。
・権力に虐げられた人々が、「黒呪術」を生み出す。
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2016年6月22日
人類年表
・138億年前: ビッグバンによって、宇宙が誕生する。(Wikipedia)
・46億年前: 地球ができる。(文献1)
・38億年前: DNAを持つ簡単な生物が誕生(文献1)
・700万年前: 人類はチンパンジーとの共通の祖先から別れ、進化してきた。初期猿人の時代。(文献2)
・400万年前: 猿人は森林から草原へ。2足歩行が可能になる。猿人の時代。(文献2)
・200万年前:アフリカで原人が誕生。脳が拡大し、知能が発達。本格的に道具を作成し、狩りを行うようになる。原人の時代。(文献2)
・180万年前: ホモ属の奥歯小さくなる。よって、この頃から、火を使い始めたものと考えられる。(文献1)
・60万年前: 中・大型動物の狩猟が発達。旧人の時代。(文献2)
・数十万年前: ネアンデルタール人(旧人)が、生まれる。西アジアとヨーロッパに棲息。(文献2)
・20万年前: アフリカでホモ・サピエンスが誕生。新人の時代。(文献2)
・9万5千年前:埋葬が始まる。イスラエルのカフゼー洞窟で、30体の人骨が発見される。(文献3)
・7万年前(遅くとも): 抽象的な思考や文法を持つ言語が発生。(文献3)
・7万年~6万年前: 出アフリカ。(文献2)
・4万年前: ホモ・サピエンスが、ヨーロッパへ移住。(文献2)
・3万年前: ネアンデルタール人が、滅びる。
・1万5千年前: フランス、ラスコー洞窟において、壁画が描かれる。(Wikipedia)
・1万年前: 農耕と牧畜を開始。(文献2)
・4万年~3万年前: 縄文人が日本列島に渡来。
・1万5千年前: 縄文文化発生。(文献2)
・6千400年前: メソポタミア文明、エジプト文明において文字が発明される。(文献3)
・2千300年前: 弥生人が日本列島に渡来。(文献2)
・50億年後: 太陽が燃え尽きる。(文献1)
(参考文献)
文献1: 私たちはどこから来て、どこへ行くのか/森達也/筑摩書房/2015年
文献2: 面白くて眠れなくなる人類進化/左巻健男/PHPエディターズ・グループ/2016年
文献3: 人類はどこから来て、どこへ行くのか/エドワード・O・ウィルソン/科学同人/2013年