文化認識論

(世界を記述する。Since July 2016)

救済としての芸術(その5) 消え去る「知」

 

秩序の構造について、もう一度、整理してみよう。

 

まず、文字が生まれた。文字が「知」を作り出す。「知」とは、文明に影響を及ぼす何らかの思想や理念、若しくは知恵のことだ。「知」は、それを知っている者と知らない者との間に差異を作り出す。知っている者は知らない者に優越し、知らない者は劣後する。この関係が、組織的な人間集団を作り出し、その集団を統率するために、権力が生まれる。「知」を持たない者は、自発的にその権力に隷従する。隷従する者は、権力を持つ者と同様に、その集団から利益を得る。

 

では、秩序を構成する要素を箇条書きにしてみよう。

 

・文字

・「知」

・差異

・集団

・権力

・隷従

・利益

 

では、このような構造を持つ秩序が永久に続くかと言えば、そんなことはない。何故なら、「知」は不完全であって、様々な要因によって否定されるからである。その最大の要因は、自然科学の進歩だろう。自然科学は今日においても、その進歩の速度を緩めることはない。かつて自然科学は、天動説を否定し、地動説を生み出した。今日においても、進歩し続ける自然科学は、人間の戦争という概念をくつがえしつつある。かつての戦争は、人が人を殺すという前提を持っていた。しかし、既にロボット兵器やドローン、サイバー攻撃などを可能とする技術は存在する。従って、それらの先端技術が、人を殺すのが戦争だと言えなくもない。

 

その他にも自然災害や環境問題、人々の主張などによって、「知」は否定され続けているに違いない。例えば、日本国憲法が制定された75年前、同性婚という発想を持っていた人は、ほとんど皆無であったに違いないのだ。

 

現代の日本を含めた西側先進諸国においては、「知」が消失しつつあるのだ。つまり、秩序の中から、「知」が消えたのである。それにも関わらず、利益を求め続ける人々は確実に存在するのであって、権力を維持しようとする。

 

パソコンのOSのように、「知」をバージョンアップさせれば問題は解決するはずだが、「知」を更新させた場合、権力構造そのものが変化する。それまでの権力者は、既得権を失うことになる。従って、権力者は必然的に「知」の更新を拒絶するのである。権力が必ず腐敗する理由、組織的な集団が経路依存性を持つ理由が、ここにある。

 

秩序を構築しよう、秩序化を進めようとする1点において、宗教にその源流を持つ右翼も、社会科学を源流に持つ左翼も、そして自然科学も、同じなのだ。

 

私は、アナーキストではない。すなわち、全ての秩序を否定する訳ではない。しかし、秩序化を強引に推し進めることには、反対なのである。それはもっと緩やかなものであり、合理性を追求し過ぎないものであり、一見無駄と思われる事柄を許容するものであるべきだと思っているのだ。そのためには、秩序を緩和し、我々の文明を文化や主体の側へ押し戻すべきだと思う。豊かな想像力を持ち、他人の痛みを我がことのように嘆く。そのような人が増えれば、それは決して不可能ではない。

 

主体 - 文化 - 秩序

 

もし、あなたに秩序に反抗する力があれば、そうして欲しい。それが無理ならば、秩序に対抗しようとしている人を応援して欲しい。それも無理ならば、秩序とは異なるあなた自身の姿を守り続けて欲しいと思う。

 

私の居住する埼玉県の某所に、「ステラタウン」という名の先進都市がある。その一角に、このようなオブジェが立っている。それは秩序に抗っている人間の姿に、とてもよく似ている。

 

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秩序に抗うオブジェ