文化認識論

(世界を記述する。Since July 2016)

戦争と文明(その13) 日本が抱える戦争リスク

 

日本はどのような戦争リスクを抱えているのだろう。

 

ロシアがウクライナに侵略した直後、ロシアは北方領土で3千人規模の軍事演習を行った。そのことから、ロシアが北海道に攻めて来るのではないかという論議があった。しかし、ロシアは既にウクライナ戦争で疲弊しているし、国内の厭戦ムードも高まっている。北海道に攻め入るだけの戦力をロシアが温存しているはずがない。

 

次に、北朝鮮の問題がある。北朝鮮は、着々と核兵器の開発を進めているし、それを搭載するミサイルの発射実験も繰り返している。これは、とても厄介だ。しかし、北朝鮮が見ているのは第1に米国であり、第2に韓国だろう。何しろ、朝鮮戦争は休戦状態にはあるものの、未だ終結はしていないのだ。解決の糸口は見えないが、北朝鮮を巡る戦争において、日本が主要なプレイヤーになる必要はない。

 

残るリスクは、米中対立を背景とした台湾有事である。専門家である田岡氏の説は、次の通りである。(詳細は、次のYouTube番組にて。残念ながら田岡氏は活舌が悪く、聞き取りにくい。また、番組途中で田岡氏は在日中国人の数を7百万人と言っているが、訂正することなく、数分後には70万人と述べている。70万人が正解。)

 

台湾有事 引き起こすのは誰か【田岡俊次の徹底解説】20220920 - YouTube

 

中国は歴史上の経緯からして、台湾を独立国家としては認めていない。いつかは、統一する意向を持っている。但し、現在、中国は台湾と強い経済的な結びつきを持っており、軍事的な侵攻を行うとは考えられない。一方、台湾市民もその8割以上が現状維持を望んでおり、特段、中国からの独立を目指している訳ではない。

 

しかし、米国の意向は異なる。そもそもアジア人を蔑視している米国は、中国の経済的な台頭が気に入らない。中国のGDPが米国のそれを超えるのは、時間の問題だと言われている。そこで、米国は中台問題に介入しようとしている。実際、米国は台湾近くの海域に空母を派遣したり、国会議員団を台湾に派遣したりするなど、中国の嫌がることを繰り返している。また、米国内での選挙では、中国に対し強硬な姿勢を示した政治家が有利となる。そこで米国は、台湾における軍事的な緊張を高め続けるのではないか、という見立てなのである。

 

何らかの出来事があって、台湾若しくはその近郊で軍事衝突が起こった場合、日本は必然的にその戦闘に巻き込まれてしまう。そのシナリオは2つある。米軍の艦船や戦闘機は、沖縄をはじめとする在日米軍基地を拠点としており、これらの基地が中国から攻撃を受ける可能性があるのだ。また、米軍が中国から攻撃を受けた場合、米軍は「少しは協力しろよ」と自衛隊に命令し、自衛隊はその命令に従わざるを得なくなるのである。そのための日本における法整備は、2015年に安全保障関連法案(別名、戦争法案)として、既に、完了している。日本が米軍に加担した場合、それは日中間の開戦を意味する。

 

悪いことは、更に続く。ベトナム戦争などの過去の事例からして、米国は5年も戦争を続けると、国内で厭戦気分が沸き起こる。そこで、戦争を止めようという世論が強くなり、その方向で主張した政治家が有利となる。そこで、米国は後方へ引き、日本が戦争の矢面に立たされるというのだ。

 

田岡氏が示す上記のシナリオには、現実味があるように思う。

 

勢い、日本国内ではやれ核共有を検討せよとか、軍事費を倍増せよという議論が沸き起こっているのだ。つい先日も保守系YouTuberが、だから軍備を拡張せよ、それがリアリズムだと述べていた。

 

そうだろうか?

 

ここは冷静に、考えなければならない。そもそも、そんな戦争をして、日本に勝ち目はあるのか、ということだ。私は100%、日本が負けると思う。中国の軍事予算は、日本の倍以上である。そんな状態が、既に何年も続いている。GDPだって、既に日本は中国に抜かれている。軍事力、経済力共に、日中の格差は拡大する一方なのだ。今更、日本が軍事費を倍増しようが、中国にかなう訳はない。仮に、日中が互いに1億2千万人ずつ殺害したとしよう。すると日本人は、ほぼ、壊滅する。他方、中国にはまだ13億人以上が生き続けることになる。日本は絶対に中国には勝てない。これこそがリアリズムなのである。

 

上記のような最悪のシナリオを回避するために日本の政治家がなすべきことは、米国に自制を求めると共に、中国側には平和的なメッセージを送ることであろう。しかし、それができる政治家が、日本にいるだろうか? とりわけ与党の中にそれだけ根性の座った政治家はいるだろうか。はなはだ疑問だと言わざるを得ない。何しろ、米国のご機嫌を損ねた政治家は、必ず政治生命を失うと言われているのである。とりわけ、米国は次の3点を許さないと言われている。

 

在日米軍基地の縮小に関すること。

・日本が中国と仲良くしようとすること。

・日本が保有する米国債の売却に関すること。(日本は米国の国債を1兆ドル以上持っている。これを売ろうとすると、米国は激怒する。)

 

結局、米国が日本を守ってくれるなどということは、幻想なのだ。米国は、米国の利益のためだけに判断を下す。それは個人においても同じことが言えて、親や教師が子供たちの利益を考えてくれるというのも幻想なのではないか。自分の利益は、自分で考えるしかない。換言すれば、自分の頭で考えない限り、国も個人も、その利益を確保することはできないのである。