文化認識論

(世界を記述する。Since July 2016)

戦争と文明(その18) 人はなぜ戦争をするのか

 

今年の6月から始めたこのシリーズ原稿も、そろそろ結論を述べるべき段階に来た。そして、このシリーズ原稿における設問は、次の2点に集約される。

 

設問1: 人はなぜ戦争をするのか?

 

設問2: 人間を戦争というくびきから解き放つことはできるのか?

 

本稿では、設問1に対する私の考え方を述べたい。

 

まず、原始宗教があった。原始宗教とは、動物信仰、呪術、神話、シャーマニズムなどの総称である。そして原始宗教は、人々の集団化を促したのだ。例えば、同じ動物を信仰することによって、同じ神話を信じることによって、人々は集団を形成したのである。次に、原始宗教は、様々な幻想を生み出したに違いない。民族主義、男尊女卑などがこれに当たる。幻想に、科学的、合理的な根拠はない。そして、幻想を体系化したものが宗教である。

 

幻想は、権力を生み出す。西洋における王権神授説や日本の天皇制などが、これに当たる。権力者は自らの権力を維持するために、全ての社会制度において、変化を許容しない。現状維持を求めるのである。しかし、人間社会における常識や価値観(エピステーメー)は不断の変化を遂げるのであって、権力者といえども、エピステーメーの変化を止めることはできない。権力は必ず腐敗すると共に、エピステーメーに敗北する宿命を負っている。

 

このようなメカニズムによって、必然的に危機を迎える権力者が、自らが君臨する集団を結束させ、自らの権力を維持するため、戦争を始める。一口に言えば、危機に瀕した権力者が、戦争を始めるのである。

 

原始宗教 → 幻想 → 宗教 → 権力 → 戦争

 

このシリーズ原稿は書き始めてから、その半年足らずの間にも、世界情勢は急変した。

 

ロシアがウクライナへ侵略した当初、ウクライナの首都キーウは、3日で陥落するだろうと言われていた。それがどうだろう。昨今では、ロシアの劣勢が伝えられている。しかし、喜んでばかりもいられない。このままロシアの劣勢が続くと、プーチン政権はもたない。従って、どこかのタイミングでプーチン政権が起死回生の反撃に出てくる危険性がある。それが核でないことを祈るばかりだ。一方、ロシア国内でクーデターか、若しくは内乱が発生する可能性もある。そうなってロシアの民主化が進めば良いと思うが、その場合でも多数の犠牲者が出ることは避けられないだろう。経済への影響も心配される。

 

昨今、南北朝鮮の間で、威嚇射撃の応酬が続いている。北朝鮮は、核弾頭を搭載可能なミサイルの開発を急いでいる。世界情勢が流動化すれば、その機に乗じて、北朝鮮が何らかの暴挙に出る危険性もある。

 

かつて中国は、共産党一党独裁だと言われていた。寡頭制である。しかし、今回開催された党大会において、中国は習近平の独裁へと移行したように見える。独裁制は危険だ。中国の経済が上昇傾向にある間、習近平の権力は揺るがないだろう。問題は、中国経済の成長が止まった時だ。そのタイミングで、習近平は台湾への侵攻を決断するかも知れない。

 

いずれ中国のGDPは米国のそれを超えると言われている。プライドの高い米国民が、それを許すだろうか。米国内でナショナリズムが高まり、それに応えようとする米国政府が暴走する危険性もある。戦争を始めるために、合理的な理由など要らないのだ。米国が始めた過去の戦争を見れば分かる。

 

我が国においても、「敵基地攻撃能力」を持つべきだとする論議が出ている。これはあまりにも評判が悪かったので、最近は「反撃能力」と言うらしい。中味は同じである。そもそも、敵基地攻撃能力を持つということは、日本国憲法9条に対する違反だが、自民党はそのことに頓着していない。防衛費の増額も主張されている。政府がこのようなことを主張し始めたということが何を意味するのか、知性をもって考えれば分かるだろう。月並みな言い方だが、戦争の足音が近づいている。