シーン1: (2回目の訪問)汽車の中。信号所で汽車が停車する。駅長と話す葉子の声は、悲しいほど美しかった。葉子は病気の男の面倒を見ている。3時間前のこと、島村は左手の人差し指を眺め、結局、この指だけがこれから会いに行く女をなまなましく覚えている、と思う。窓ガラスを拭うとそこだけが鏡のようになって、窓の外の景色と窓ガラスに映る葉子の顔が2重写しとなる。なんともいえぬ美しさに、島村の胸が顫えた。
シーン2: (2回目の訪問)12月の初旬である。島村は宿で駒子との再会を果たす。「こいつが一番よく君を覚えていたよ」と言って、島村は左手の人差し指を葉子の目の前に突きつけた。
シーン3: (1回目の訪問)時は遡って、新緑の頃。無為徒食の島村は、よく一人で山歩きをする。山から戻った島村は、女中に言って女を呼んでもらう。やって来た19才の駒子には清潔感があった。駒子の生まれは、この雪国だった。東京でお酌をしているうちに受け出されたが、1年半ばかりで旦那は死んでしまった。話すうちに島村は駒子に友情のようなものを感じた。翌日の午後、駒子が島村の部屋へやって来る。島村は突然、駒子に「芸者を世話してくれ」と言う。島村は駒子とはそういう関係になりたくないと言い、駒子も同意する。島村は女中を呼び、女中が女を手配する。すると肌の浅黒い、いかにも山里の芸者がやって来る。島村は興ざめし、郵便局にかこつけて芸者を連れて部屋を出て、そこで芸者とは別れる。その夜、駒子が島村の部屋へやって来る。再度、島村の部屋へ来た駒子は酔い潰れていた。駒子は突然脣を突き出した。島村は駒子を抱いた。駒子は「あんたが悪いのよ、あんたが負けたのよ」と言って、島村をなじった。翌日、島村は東京へ帰った。
シーン4: 12月の初旬(2回目の訪問)に戻る。駒子には日記とか、15~6の頃から読んだ小説を書き留めておく雑記帳があって、それがもう十冊にもなっていた。駒子はそこに題と作者、登場人物の名前と彼らの関係を書いている。感想は、書かない。島村はそのような駒子の行為を徒労だと言う。駒子も同意する。しかし島村は、そんな駒子の存在が純粋に感じられた。
シーン5: 島村は街中で駒子と出くわす。駒子は自分の家へ島村を案内する。その家は朽ち古びていた。家の土間から梯子を使って屋根裏部屋へ行く。「お蚕さまの部屋だったのよ」と駒子が言う。師匠の息子(26才)は腸結核で、故郷へは死にに帰ったのだった。踊りの師匠は、港町で芸者を勤め上げた後も、踊りの師匠としてそこにとどまっていたが、50前で中風をわずらい、故郷であるこの村に帰ってきたのだった。葉子が何者なのか、何故、駒子がこの家にいるのかは、一向に分からない。駒子の家を出た島村は、通りすがりの女按摩に声を掛ける。宿の部屋で、島村は按摩に身体を揉んでもらう。按摩は、師匠の息子の医療費を捻出するために、駒子がこの夏、芸者に出たと言った。また、駒子は息子のいいなずけだとも言った。「駒子が息子のいいなずけだとして、葉子が息子の新しい恋人だとして、しかし息子はやがて死ぬのだとすれば、島村の頭にはまた徒労という言葉が浮かんできた」。夜、宴会に出た後の駒子が島村の部屋へやって来る。駒子は6月に芸者に出て、8月いっぱいは神経衰弱でぶらぶらしていたと言う。島村は、駒子を抱いた。
シーン6: 翌朝、島村の部屋で二人は目覚める。駒子は自分が師匠の息子のいいなずけであったということを否定する。但し、「お師匠さん」が息子と駒子とがいっしょになればいいと思った時期があったらしい。(お師匠さんと駒子との間に血縁関係のないことが分かる。)駒子は着替えと三味線の練習道具を持ってくるよう葉子に依頼する。島村の前で、駒子は三味線の練習を始める。島村は、その三味線の音に叩きのめされてしまう。
シーン7: 島村は、東京へ帰る。駒子が駅まで見送りに来る。そこへ葉子がやって来て、お師匠さんの息子(行男)の様子がおかしいので、早く帰ってと告げる。「お客さまを送っているんだから、私帰れないわ」と言う。島村は駒子に帰宅を命ずるが、駒子は「よくないわ。あんたもう二度と来るか来ないか、私には分かりゃしない」と言う。結局、駒子は駅の待合室から島村を見送る。
シーン8: 翌年の初秋、島村は雪国を訪れる。(3回目の訪問)島村との再会を果たした駒子は、「あんた、なにしに来た。こんなところへなんしに来た」と問う。島村は「君に会いに来た」と答える。行男は死に、駒子は21になっていた。2月にお師匠さんも死に、駒子は4年の年季で芸者になっていた。置屋に住んでいる。駒子には、17の時から5年続いている男がいた。翌朝、島村は駒子と別れると散歩に出た。道端の日向に藁むしろを敷いて小豆を打っている葉子がいた。葉子は美しい声で歌っていた。
シーン9: 島村は駒子と連れ立って、墓所へ行く。そこで、葉子と出会う。「私ね、行男さんのお墓参りはしないことよ」と駒子が葉子に言う。夜中の3時に、酔った駒子が島村の部屋を訪ねる。そんな異常な時間にやって来たことに島村はただならぬものを感じた。
シーン10: 紅葉の季節となり、人手不足となる島村が宿泊する宿で、葉子が働き始める。島村は、葉子にも惹かれてしまう。島村は昆虫どもの悶死するありさまを、つぶさに観察する。葉子が島村の所へ駒子からの伝言メモのようなものを持ってくる。「駒ちゃんはいいんですけれども、可哀想なんですから、よくしてあげて下さい」と葉子が言う。島村は「しかし僕には、なんにもしてやれないんだよ」と答える。葉子は「駒ちゃんは私が気ちがいになると言うんです」と告げる。駒子が島村の部屋へやって来る。駒子は葉子を次のように評する。「恐ろしいやきもち焼きなの」「殺されちゃいますよ」。島村は駒子を送り、駒子の部屋まで上がる。島村が宿へ帰ろうとすると駒子が宿までついて来る。駒子は冷酒を持って来る。「君はいい女だね」と島村が言い、勘違いした駒子が怒る。
シーン11: 織物の縮(ちぢみ)の話。雪のなかで糸を作り、雪のなかで織り、雪の水に洗い、雪の上に晒す。すべては雪の中で作る縮。それは雪国の女たちが作るのであった。島村は縮の産地へ行ってみることにする。温泉町に帰って来ると火事が発生する。火の手が見える。どうやら火災は繭倉のあたりで発生したらしい。今夜、繭倉では映画が上映されている。駒子は繭倉を目指して走り出す。島村も追う。駒子はふと立ち止まって「あんたはいいのよ、いらっしゃらなくて。私は村の人が心配よ」と言い、島村も確かにそうだと納得する。駒子は「天の河。きれいねえ」と呟く。駒子は走り続ける。島村が追う。新しい火の手が火の子を噴き上げる。島村が立ち止まる。駒子は走る。島村も走り出す。火事の現場に到着する。人目もあると思って、島村は駒子からそっと離れて立つ。駒子が寄ってきて、島村の手を握る。なぜか島村は別離が迫っているように感じた。建物の2階から、女が落ちた。女は葉子だった。葉子の腓(こむら)が地上で痙攣した。葉子は失神したままらしかった。駒子は飛び出して、葉子を抱えて戻ろうとした。駒子は「この子、気がちがうわ、気がちがうわ」と叫んだ。島村は駒子に近づこうとするが、葉子を駒子から抱き取ろうとする男達に押されてよろめいた。踏みこたえて目を上げた途端、さあと音を立てて天の河が島村のなかへ流れ落ちるようであった。
以 上