ギリシャ神話とは、主に口頭で伝承された神々に関する物語であって、それを最初に文字化したのは、紀元前8世紀頃のホメロスだと言われている。ギリシャ悲劇と言った場合には、ギリシャ神話に触発された詩人たちが演劇用の台本として文字で書いたもので、紀元前5世紀頃、実際に上演されたものである。但し、この演劇には合唱隊が重要な役割を果たしており、これから取り上げる「アンティゴネ」を書いたソポクレスも、合唱隊の歌を作曲していたと言うから驚きである。
ちなみにギリシャ悲劇の作者としては、アイスキュロス、ソポクレス、エウリビデスが3大詩人と呼ばれているが、ナンバーワンはソポクレスだというのが一般的な評価である。
古代ギリシャにはテーバイという都市国家があって、主にテーバイを舞台にしたソポクレスの以下の3作品を総称して、テーバイ3部作と呼ぶ。
オイディプス王
コロノスのオイディプス
アンティゴネ
物語を時系列に並べると上記の通りだが、執筆時期としては「アンティゴネ」が最も早い。それでは「アンティゴネ」という作品に入る前に予備知識を記しておこう。
オイディプスはテーバイの王様だったが、父を殺し、母と結婚してしまったことが明らかとなり、自ら両目を潰した。この経緯は、「オイディプス王」に描かれている。
オイディプスには4人の子供がいた。
・兄・・・ポリュネイケス
・弟・・・エテオクレス
・姉・・・アンティゴネ
・妹・・・イスメネ
盲目となったオイディプスは、息子たち(兄と弟)からテーバイを追放される。オイディプスは長女のアンティゴネに手を引かれ、物乞いをしながら各地を流浪する。最後にコロノスに辿り着き、そこで雷鳴と共に他界する。この経緯については「コロノスのオイディプス」に描かれている。
オイディプスを追放した後、兄と弟は1年交代でテーバイを統治しようと約束するが、弟が裏切り、兄を追放する。兄は他国の武将と手を組み、テーバイに攻め入る。決着が付かなったので、兄弟で一騎打ちをすることになるが、相打ちとなり、兄弟ともに死んでしまう。その直後、クレオンがテーバイの王に即位した。クレオンは、弟の遺体は丁重に埋葬するが、他国の武将と手を組んでテーバイに攻め入った兄の遺体については、埋葬することを禁じ、野生動物の餌食とするように命令を下す。
<その他の登場人物>
クレオン・・・テーバイの王
ハイモン・・・クレオンの息子
エウリュディケ・・・クレオンの妃
テイレシアス・・・盲目の予言者
ここまでが、必要な予備知識である。
シーン1: アンティゴネとイスメネの姉妹が登場。アンティゴネがイスメネに対し、クレオンが兄(ポリュネイケス)の埋葬を禁じたこと、この命令に背いた者は死罪に処するとのお布令を出したことを説明する。アンティゴネは兄の亡骸を埋葬しようと考えており、イスメネに協力を依頼するが、イスメネはこれを断る。イスメネは、自分たちは女であり、権力者には服従する他はないと告げる。
シーン2: クレオンと長老たちが話している所に、番人が報告に駆け付ける。番人は兄(ポリュネイケス)の遺体に何者かが土砂を振り掛け、弔いの式を行ったと告げる。
シーン3: 番人がアンティゴネを引き立てて入場し、アンティゴネが犯人であるとクレオンに報告する。アンティゴネは、自ら罪を認める。そしてクレオンの出したお布令は、神々が決めた掟に反するとして、激しくクレオンを非難する。激怒したクレオンは、妹のイスメネを連れてくるよう命じる。イスメネは、アンティゴネと共犯だと主張するが、アンティゴネがそれを否定する。アンティゴネとイスメネが、従者に連れていかれる。
シーン4: クレオンの息子、ハイモンが登場する。ハイモンはアンティゴネの許嫁(いいなずけ)だった。ハイモンは町の人々が、アンティゴネのために悼み嘆いている事実を報告する。「あの娘(アンティゴネ)は、自分のまことの兄弟が斬り合いで倒れたままで、弔いもされず、生肉を喰らう犬どもや野鳥の類に荒らされるのを見過ごしにはしなかったのだ」と言って、アンティゴネを擁護する。クレオンは激怒し、ハイモンは退場する。
シーン5: アンティゴネは、洞穴に幽閉される。
シーン6: 盲目の予言者、テイレシアスがクレオンの前に登場する。テイレシアスはクレオンに対し「死人をさらに殺してそれが、何の誉か」と諫める。また、このままでは取返しのつかない不幸に見舞われると予言し、クレオンに翻意を促す。テイレシアスが去った後、クレオンはお布令を撤回し、アンティゴネを洞穴から救出することに同意し、自ら救出に出掛ける。
シーン7: 長老たちの元へ、報せの男がやってきて、クレオンの息子ハイモンが自害したことを報告する。そこへクレオンの妃、エウリュディケがやって来て、報告を受ける。男はまず、アンティゴネが首を括っているのを発見し、続いて彼女の遺体にすがりついているハイモンを見付ける。クレオンが話し掛けるとハイモンは剣を抜き、クレオンに切り掛かったが、クレオンはそれを避けた。するとハイモンはその剣を自らの脇腹に突き立て、自害したのだった。報せを聞いたエウリュディケは、何も語らず王宮の中へと入って行く。
シーン8: 帰ってきたクレオンが、後悔の念を述べる。そこへ王宮の中を確認していた男がやってきて、クレオンにエウリュディケが自害したことを告げる。クレオンは絶望し、劇は幕を閉じる。