文化認識論

(世界を記述する。Since July 2016)

権力とは何か

 

権力は「知」を背景とするが、往々にして権力は「知」を捻じ曲げ、抑圧し、骨抜きにする。例えば、企業にとって法令を遵守すること、すなわちコンプライアンスが重要だという「知」は、もう何十年も前から一般化されている。しかしながら、近年においても企業の不祥事は絶えない。これはコンプライアンスという「知」を、企業経営者が無視している証左に他ならない。自動車業界で言えばトヨタグループの日野自動車ダイハツ豊田自動織機らの認証試験に関わる不正、日産自動車の下請法違反などが記憶に新しい。

 

モンテスキュー三権分立を説いたのは1748年のことだが、日本においてそれが機能しているとは言い難い。国会における与党から内閣総理大臣が選任され、内閣は最高裁の裁判官を任命できる。すなわち、日本においては総理大臣が立法、行政、司法の3権を掌握できる仕組みになっているのだ。自民党議員の裏金問題について、検察が及び腰だったのも無理のない話なのである。彼らの上司は、法務大臣なのだから。日本の検察は権力者の味方なのであって、彼らに正義を期待することはできないと思う。

 

権力の起源を考えると、最初に存在したのは暴力だろう。これは、動物の世界にも見られる。次に、シャーマニズムが登場し、宗教的な「知」が生まれ、これも権力を構成した。宗教上の「知」は、人々の思想を統制するものだ。やがて貨幣が登場し、経済力を背景とする権力が生まれた。権力の基本的な要素はこれら、暴力、思想(統制力)、経済の3つだと思う。

 

私はかねてより、上記のように考えてきたが、誰か同じようなことを考えていた人はいないものだろうか。そう思っていた訳だが、遂に発見した。「政治学のナビゲーター」という本(文献1)は、大学生を読者として想定して書かれたものだと思われるが、高齢の私でも興味深く読むことができた。その中に、次の記述があった。

 

- 実体説は、権力を、暴力(物理的強制力)、財力(経済的強制力)、影響力(心理的強制力)など、人間が保有する何らかの力としてとらえる。権力を目に見えるものとしてとらえる、やや古典的な権力観である。 (文献1 P.5)-

 

Bingの人口知能で調べてみると、この説は、ジョン・ロックが人間悟性論(1690年)の中で提唱したものらしい。文献1はこの説にやや批判的な立場を採っている。そして、その後で、関係説を次のように紹介している。

 

- 政治学の発達に従って登場したのが、関係説である。関係説では権力を行使する側と行使される側の相互作用から権力関係が成立すると考える。権力の行使は、権力者から相手(権力を行使される側)に対して一方的になされるのではなく、相手の反応によって権力者の強制力行使の程度は変化する、と考えるのである。 (文献1 P.5)-

 

私としては、この関係説に価値を見出すことはできない。例えば、現在ガザ地区で行われているイスラエルによるジェノサイドを見るがいい。パレスチナ人の反応など関係なく、女性や子供を含めて皆殺しにしているのだ。また、実体説における影響力(心理的強制力)を「思想統制力」と解釈すれば、これは私の説と同等なのである。

 

では、権力の3要素について、順に考えてみよう。

 

まず、暴力。昔の日本社会においては、現在よりも暴力が横行していた。実際、私は親や教師に殴られた経験が少なくない。現在の常識からすれば、ちょっと信じ難いかも知れない。昔は、どこの学校にも竹刀を持ち歩いている教師がいたのではないか。それは威嚇の意味もあったのだろうが、実際に竹刀で生徒を叩いていたのだ。

 

次に、思想。大学を卒業して私が就職した会社には、民社党系の労働組合があった。そして、この組合が洗脳教育を徹底し、選挙活動を強制してくるのだった。嫌悪感しかなかったが、上司である管理職までも結託して、思想統制を行ってくる。民社党やその系列の労組の思想とは、簡単に言うと反共思想だった。とにかく、共産党の悪口しか言わない。最近になってネットで調べてみると民社党は、CIAから資金援助を受けていたらしい。どこか、統一教会に似ている。そんな思想を会社ぐるみで強制するのだから、悪質、低レベルとしか言いようがない。幸い数年後にはその労組のトップが失脚し、思想統制は急速に緩和されていったのだが。

 

現代の日本社会において、上記のようなあからさまな思想統制は、影を潜めてきたのではないか。反面、マスコミによる洗脳が横行しているに違いない。それはそれで、悪質だと思う。テレビばかりを見ている人は、高い確率で自民党支持者になるに違いない。

 

最後に、経済。簡単に言うと、経済的に自立している人、裕福な人が自由に暮らすのは、左程、困難なことではない。労働から解放されれば、気ままな暮らしが可能となる。他方、経済的に余裕のない人は、あくせくと働かざるを得ない訳だ。これが現代日本社会における最大の権力構造だと思う。権力者は、労働者を貧困にさせることによって、つまりはお金の力によって、縛り付けているのだ。それは明らかに、意図的に行われている。非正規労働を導入し、最低賃金は低水準に抑え、更には移民を導入することによって、更なる低賃金化を目指している。

 

このように考えると、行使されている権力を分析すれば、文明や社会、若しくは国家の構造が見えてくる。日本は、未だに暴力や思想統制が横行している北朝鮮のような国よりは余程マシだとは思うが、多くの権力者たちが拝金主義に陥っている理由も見えてくるのである。

 

文献1: 政治学のナビゲーター/甲斐祥子・宮田智之 著/北樹出版/2018