文化認識論

(世界を記述する。Since July 2016)

戦争と文明

戦争と文明(その20) あとがき

1956年生まれの私は、リアルタイムで戦争を経験したことがない。それでも物心づいた頃から今日に至るまで、戦争の恐怖を叩きこまれ、戦争が引き起こす強烈な同調圧力の下で生きてきたように思う。戦争が起こるかも知れない。だから、日本人は団結しなければ…

戦争と文明(その19) 人間を戦争というくびきから解き放つことはできるのか?

表記の問題は、このシリーズ原稿における最後の設問である。私の考えを以下に記す。 この設問に対する答えは、その人の持つ歴史観に左右されるのではないだろうか。一方で、運命論というのがある。人間がどのようにあがこうと、大きな川の流れを変えることは…

戦争と文明(その18) 人はなぜ戦争をするのか

今年の6月から始めたこのシリーズ原稿も、そろそろ結論を述べるべき段階に来た。そして、このシリーズ原稿における設問は、次の2点に集約される。 設問1: 人はなぜ戦争をするのか? 設問2: 人間を戦争というくびきから解き放つことはできるのか? 本稿で…

戦争と文明(その17) 「知性」とは何か

このシリーズ原稿の中で、私は「知性」という用語を使った。そうであるからには、「知性」とは何か、私にはそれを説明する責任があるように思う。 私が述べようとしている「知性」とは、例えば知能指数とか、そういうことではない。人間の能力とは、誠に多岐…

戦争と文明(その16) 「国家」について

どの本に書いてあったのかは忘れてしまったが、こんな話がある。何年か前にある人が、何ヵ国かを対象としたアンケート調査を行った。設問は、次の通りである。 人類にとって、最も重要な哲学書は何か? 結果として、堂々の第1位に輝いたのは、何とプラトンの…

戦争と文明(その15) 「正義」について

リベラルと言えば、それは自由主義思想を指していると思っていたが、必ずしもそうではないらしい。法哲学の井上達夫氏は、次のように述べている。 - 私は、「リベラルの基本的な価値は自由ではなく正義だ」という趣旨の基調論文を書きました。それが私のリ…

戦争と文明(その14) 「知性」について

今に始まったことではないが、世の中、右を見ても左を見ても、反知性主義で満ち溢れている。戦後、GHQが採用した日本人に対する3Sと呼ばれる愚民化政策が功を奏しているのだろう。そればかりではない。統一教会は、米国のCIAが日本に投下した毒饅頭ではない…

戦争と文明(その13) 日本が抱える戦争リスク

日本はどのような戦争リスクを抱えているのだろう。 ロシアがウクライナに侵略した直後、ロシアは北方領土で3千人規模の軍事演習を行った。そのことから、ロシアが北海道に攻めて来るのではないかという論議があった。しかし、ロシアは既にウクライナ戦争で…

戦争と文明(その12) 権力の歴史

人類の歴史に沿って、権力の変遷を考えてみたい。ここで扱う歴史の区分は、以下の6種類である。 1.原始共産制 2.村落共同体 3.君主制 4.立憲君主制 5.立憲民主制 6.グローバリズム 上記の区分は、発生順に並べたものだが、それぞれの項目は、直…

戦争と文明(その11) 贈与論/マルセル・モース

幻想が権力を生み、危機に瀕した権力者が戦争を始める。前回までの原稿で、私はこのテーゼに辿り着いたのだった。では、権力とは何か。その起源は何だろう。戦争の形態は時代と共に変遷してきたのであって、そうであれば権力の形態にもいくつかのパターンが…

戦争と文明(その10) 幻想と権力、そして戦争

マスケット銃が、歩兵を生み、歩兵が民主主義を生んだ。このような因果関係は、誰にも予測できなかったに違いない。同じような話は、他にも沢山ある。 錬金術が、科学を生んだ。これはユングの説である。錬金術というのは、人工的に金を作り出す非科学的な試…

戦争と文明(その9) 永遠平和のために/カント

過去において、戦争を礼賛する哲学者や文学者がいたことは、前回の原稿で紹介した通りである。そして、哲学者の西谷修氏は、次のように述べている。 - 戦争が避けるべき「災い」あるいは端的に「悪」だと考えられるようになった、その転換を象徴するのは、…

戦争と文明(その8) カイヨワの戦争論

ロジェ・カイヨワは、1913年にフランスで生まれた。1948年には、国連の関連組織であるユネスコに加入する。ユネスコは、教育、科学、文化などの分野における国際協力を通じて、世界平和を目指す機関である。つまり、カイヨワは徹底した平和主義者だった。 カ…

戦争と文明(その7) 統一教会とグローバリズム(その2)

統一教会の問題に戻ろう。 1954年: 世界基督教統一神霊協会(統一教会設立)。 1959年: 統一教会、日本での活動開始。 1962年: 文鮮明は渡米し、CIAのキャロル陸軍中将らと面会する。 1968年: 統一教会の文鮮明が韓国に国際勝共連合を設立。 1988-1991…

戦争と文明(その6) 憲法と米国の対日占領政策

前回の原稿において、「1947年に日本国憲法が施行されたのだが、奇しくも、その年に米国の基本政策が転換された可能性が高い」と書いた。米国は、日本に対する占領政策を何故変更したのか。この問題がどうしても気になって仕方がない。そこで、いつもの本屋…

文明と戦争(その5) 統一教会とグローバリズム(その1)

宗教と国家の間には、永い相克の歴史がある。簡単に述べてみよう。 古代において、シャーマニズムを基軸とするローカルな集団が誕生した。部族と言っても良い。彼らは、自分たちの価値観や信仰をうまく伝えることはできなかったはずだ。彼らは、歌い、踊って…

戦争と文明(その4) フロイトの思想、エロスと破壊欲動

1932年と言えば、第1次世界大戦が終結し、国際連盟が組織された後で、第2次世界大戦が始まる7年前のことだ。その年、国際連盟はアインシュタインに対し、粋な依頼を行ったのである。それはまず、今の文明にとって最も重要であると思われる問いを選定するこ…

戦争と文明(その3) 集団幻想としての対米従属

政治学者の白井聡氏の著作、「長期腐敗体制」(角川新書)を読んだ。とても興味深い本で、久しぶりに一気に読み終えた。何が書いてあるかと言えば、日本の権力構造が腐っているということなのだ。しかもそれは、長期に渡って腐り続けていて、かつ、それは誰…

戦争と文明(その2) 洞窟の比喩/プラトン

暗い洞窟の奥深くに、多くの囚人たちが鎖に繋がれている。彼らは、洞窟の壁に映し出される影のみを見て、生きている。彼らは、それが現実であり、この世界の全てだと信じている。ある日、1人の囚人の鎖が解き放たれ、外に出ることが許される。洞窟の外に出た…

戦争と文明(その1) 人間は何を守ろうとしているのか

人間は集団を作って、ここまで生き延びてきた。そして人間は、その集団の結束力を強めようとする。結束力の強い集団は、そうでない集団よりも戦闘能力が高い。そして、戦乱の世にあっては、結束力の強い集団の方が生き延びる確率が高い。 では、人間はどのよ…

戦争と文明 はじめに

今年の2月24日にロシア軍は、ウクライナへの侵略を開始した。それ以来、戦争という2文字が、私の脳裏から消えた日はない。 人間は、何故、戦争を繰り返すのか。そこに原理はないのか。もし、原理があるとすれば、戦争を回避する手段だって、見つかるのでは…