文化認識論

(世界を記述する。Since July 2016)

構造と自由(その10) 米国の凋落が意味すること

 

最初に、米国の権力構造について、所感を述べておきたい。米国は、世界一の軍事大国であり、世界最強の軍部を保有している。そして、米軍は兵器の製造会社によって支えられている。米軍と兵器製造会社は密接な関係を持っていて、米国の政治を動かすだけの力を持っている。このグループは、一般に「軍産複合体」と呼ばれる。しかしながら、そこに学術部門も連結しているらしい。学術部門を加えた場合、それは「軍産学複合体」と呼ばれる。この学術部門は、一般にシンクタンクと呼ばれる集団を指すのだと思う。更に考えると、兵器製造会社には株主がいる訳で、彼らは巨大な資本家であるに違いない。具体的にそれが誰なのか私は知らないが、一応、彼らを国際金融資本と呼んでも差し支えなかろう。「軍産学複合体」にこの国際金融資本をプラスすると、米国における実質的な権力者の姿が浮かび上がってくる。彼らについては、エスタブリッシュメントまたはDeep State(以下“DS”)と呼ぶのが適切ではないか。

 

DSを和訳すると「国家内国家」だとか「地下国家」ということになる。

 

ちなみに「DSは陰謀論者が唱えている妄想に過ぎない」とする説があるが、この説を流布しているのはDS自身であるとする説もある。

 

DSは日本にも多大な影響力を持っていて、そのせいで日本は国民の血税を使って、オスプレイ(未亡人製造機)やトマホークなど、米国で不要になったポンコツ兵器を買わされている。日本は米国からATM代わりに使われているのが実態だ。

 

さて、国家レベルの権力の構成要素は軍事、経済、思想(統制力)の3つである、というのが私の意見である。その順に従って、米国が何故、凋落傾向にあるのか、その理由を探ってみたい。

 

まずは、米国の軍事力から。

 

第2次世界大戦中にマンハッタン計画というのがあって、米国は世界で初めて、核兵器の開発に成功した。この時点で、米国の軍事力は突出していたに違いない。その後、核兵器の製造技術は拡散し、現在では、米国に加え、英国、ロシア、フランス、中国、インド、パキスタンイスラエル北朝鮮の合計9か国が核弾頭を保有している。つまり、核兵器保有国が増加したことにより、米国の軍事力は相対的に低下したと言える。ちなみに、核弾頭の保有数は、次の通りである。(Bing調べ)

 

米 国・・・ 3,750発

ロシア・・・ 5,977発 (実戦配備数は1,456発)

中 国・・・   350発

 

上の数字を見ただけでも、ロシアが如何に軍事大国であるのか、理解することができる。現在、そのロシアと戦っているのがウクライナだ。ウクライナ戦争が始まって、早くも1年半が経過したが、その先行きは一向に見えて来ない。ウクライナにはNATOが武器を供与しており、この戦争はロシア対NATOの対立を浮き彫りにしている。(止せばいいのに、日本はNATOに接近を試みている。)

 

私は、道義的な観点から、ウクライナの領土奪還と戦争の早期終結を切に願っている。しかし現実には、戦争の長期化、泥沼化が続くような気がしてならない。そうなるとNATOに支援疲れが生ずるかも知れない。最早、米国には世界の警察を名乗るだけの軍事力は残っていないのだ。そもそも、軍事力によって他国を支配しようとする考え方自体が陳腐化しているのであって、今日の国際社会では通用しなくなっているに違いない。

 

次に、米国の経済力について考えてみよう。話は1945年に遡る。この年、米ドルが国際基軸通貨として定められた。但し、そうするためには米ドルの信用を担保する必要があり、米ドルは金本位制を採用することになった。表向きはそういうことなのだが、この取り決めには裏があった。つまり、原油の取引などには必ず米ドルを用いなければならないとする暗黙の規制を伴っていたのである。産油国以外の国々は、どうしても原油を輸入する必要がある。そのためには米ドルを取得しなければならない。そこで、米ドルを取得するために多くの国々は、米国への輸出を強制された。

 

米ドルに対する需要は、高まる一方だ。そこで米国は、大量のドルを発行することになる。具体的には米国政府が国債を発行し、これを中央銀行FRB)が購入する。この仕組みは打ち出の小槌のようなもので、米国はただ米ドル紙幣を大量に印刷し、その米ドルによって、世界中から資源や商品を購入できたのである。米国民は贅沢の限りを尽くし、米軍は大量の兵器を購入することができた。

 

その勢いは止まらず、遂に米ドルの発行高は金によって裏付けることが困難となった。そこでニクソン大統領は、米ドルの金本位制を廃止した。1971年のことだった。(金本位制を維持できなくなったのだから、その時点で米ドルは国際基軸通貨としての地位を失っても良さそうなものだが、現実には、米ドルはその地位を今日に至るまで維持している。)

 

1970年代から1980年代に掛けて、米国の自動車産業の衰退が顕著となった。そこで米国は金融技術を駆使して、新たな需要を掘り起こそうとした。しかし、それも2008年のリーマンショックで、ブレーキが掛かったように見える。その後米国は、ITに活路を見出したが、既にその動きも鈍化している。

 

2002年にEUがユーロを流通させ始めると、相対的に米ドルのニーズは低下した。2003年にはイラク戦争が勃発したが、その理由について、当初米国は、イラク大量破壊兵器を開発しているのでイラクを攻撃する、と主張していたが、結局、大量破壊兵器は発見されなかったのである。米国がこの戦争を始めた本当の理由は、イラクが米ドル以外の通貨で石油の取引を試みたことが原因だ、とする説もある。米国が仕掛けたイラク戦争は、明らかに誤りだった。そして、この戦争におけるイラク側の死者数は18万9千人に上ると言われている。何の罪もないイラクの人々が、米国に虐殺されたのだ。

 

最近では、ロシアから欧州へと天然ガスを供給するためのパイプライン、ノルドストリームが破壊された後、プーチンは欧州諸国に対し「天然ガスが欲しければ、ルーブルで取引をしろ」と主張した。また、中東諸国においても、中国の人民元による原油の取引が開始されている。米国にそれらの取引を停止させるだけの力は、残っていない。

 

米国経済の構造を考えると、まず、大量の国債発行がある。贅沢をし、大量の兵器を購入し続けるために、米国は国債発行を止める訳にはいかない。結果として、大量の米ドルがばら撒かれることになる。すると、貨幣の価値が下がるので、インフレが起こる。実際、米国における2021年のインフレ率は7.1%となっている。これを放置すると、米ドルの信用は下落すると共に、為替市場においてドル安となる。これを回避するため、米国は利上げをせざるを得ない。その理由を簡単に説明しておこう。

 

現在日本は、ほぼゼロ金利である。日本円を銀行に預金していたとしても、ほとんど利息はつかない。対して米国では「2023年7月、連邦基金金利の目標範囲を5.25%-5.5%に引き上げた」とのこと。つまり、米ドルを取得して銀行に預けた方が、日本円を持っているよりも格段に有利なのだ。そこで、多くの投資家は日本円を売って、米ドルを買っている。結果として、現在の円安傾向が生まれている。

 

このような高金利政策には、当然、副作用が伴う。金利を上げると、高リスクの株式投資が減少し、確実に利ザヤを稼げる債権が高騰する。換言すれば、高金利政策は株価を下げ、景気を冷やすのだ。また、借入金によって事業を支えている多くの中小企業や住宅ローンを抱える個人に対しても、金利負担を強いることになる。

 

米国の経済について、ポイントをまとめてみよう。

 

・多額の軍事費負担

・大量の国債発行

・インフレ

・高金利

 

これが米国経済の現状であり、一般の米国民が裕福に暮らしているかと言えば、決してそんなことはない。米国民も日本と同じように、貧しくなっている。米国の会社員は、いつクビを勧告されるか分からないし、国民皆保険が存在しない米国においては、例えば盲腸の手術を行うだけでも多額の医療費が発生する。ちなみに、2021年における米国民の貧困層の比率は、11.6%だった。

 

現状の米国を人間に例えるなら、入院して、ただひたすらカンフル剤を打ち続けているようなものだ。そしていつか、米ドルの信頼が更に揺らぎ、世界的な規模で米ドルが暴落するのではないか。但し、その時期がいつ訪れるのか、私に考えがある訳ではない。10年先になるのか、若しくは、案外早い時期になるのか・・・。

 

では、困窮する米国経済に打開策はないのだろうか? 仮にあるとすれば、それは軍事費の抜本的縮小しかないだろう。いろいろ複雑なことを述べてきたが、簡単に言うと、それは米国が分不相応に軍事費を負担してきたことに起因している。つまり米国は「戦争貧乏」に陥っているのである。

 

厳選した参考動画を2つ紹介しておこう。1つ目は、政治学者の白井聡氏によるもの。

 

【白井聡 ニッポンの正体】入れ替わる米中覇権 ~「米国偏重」日本の選択は?~ - YouTube

 

2つ目は、元JPモルガントレーダー、大西つねき氏によるもの

 

「ドル崩壊は始まっている」大西つねきのパイレーツラジオ2.0(Live配信2023/05/31) - YouTube

 

では、国家レベルの権力における第3の要素、思想(統制力)について述べよう。

 

米国が世界に提示した価値観は、自由と民主主義だろう。しかし、それには裏がある。米国が主張する自由とは、エスタブリッシュメントやDSにとっての自由に他ならない。全ての国民、1人ひとりが自律的に思考し、自らの自由を希求することなど、これっぽっちも求められてはいない。戦後、GHQは日本国民に対して愚民政策を実行した。日本国民に対してそうした位だから、米国政府が米国民に愚民政策を行っていない訳がない。スポーツ、セックス、スクリーンの3Sである。そうでなければ、米国が無辜のイラク人を大量虐殺したりはしない。

 

既に、日本を除く世界中の国々は、米国のこの欺瞞に気づいている。米国の嘘を見抜いているに違いない。参考動画を1つ。

 

【中東情勢】"さよならアメリカこんにちは中国" アルジャジーラが伝えたアラブの本音とグローバルサウス - YouTube

 

そろそろ、まとめに入ろう。

 

ここまで、国際社会における米国の権力を軍事、経済、思想の3要素に渡って見てきた訳だが、思うに軍事と思想については、まだ不確定要素があるように思う。例えば、ウクライナがロシアに勝利し、米国が盛り返す可能性だってない訳ではない。しかし、こと経済について言えば、米ドルの暴落は回避のしようがないように思える。そして、米ドルの暴落は、国際社会における米国の権力自体を消失させるだろう。その場合、米国に次いでダメージを受けるのは日本だと思う。

 

米国の凋落に反比例して国際社会に躍り出て来るのは、中国である。中国は既に、米ドルの暴落に備え、その後の世界秩序を見据えているに違いない。中国を筆頭とするBRICs、そこに中東やアフリカの国々が参加し、新たな軍事、経済、思想が構築されるかも知れない。それは数百年に1度の、人類の文明レベルでの変化となるだろう。その可能性を踏まえ、日本と日本人は対米従属を見直し、自らの頭を使って、生き残る術を模索するべきなのだ。