文化認識論

(世界を記述する。Since July 2016)

胸の痛み(その5) 胃酸逆流日誌

 

昨年の末頃に始まった、耐えがたい胸の痛み。どうやら私が罹患しているこの病の正式名称は、食道裂孔(れっこう)ヘルニアと言うらしい。食道と胃の間には、胃酸が逆流しないように、弁のような働きをする括約筋がある。正確には下部食道括約筋と言う。この括約筋の機能が低下すると、胃酸の逆流現象が生ずる。人間の胃は胃酸に耐え得るようになっているが、食道は胃酸に耐えられず炎症や痛みを引き起こす。つまり、食道裂孔ヘルニアとは原因(括約筋の機能低下)であり、逆流性食道炎(炎症や痛み)とは結果なのだ。

 

ちょっとした胸焼け程度なら、我慢のしようもある。しかし、食道裂孔ヘルニアは、時として耐え難い痛みを引き起こす。人によっては、救急車を呼ぶ程なのである。そんな痛みが続くのであれば、日常生活にだって支障を来す。

 

どうすれば良いのか。私は、近所の内科医の診療を受けているが、その内科医は、どうすればその痛みを回避できるのか、一向に説明してくれない。ただ、胃酸の発生を抑制するタケキャブという強いクスリを処方してくれただけなのだ。仕方がないので、私は、自らネットでの勉強を始めた。驚いたことに、ネットにはそのような情報が溢れているのだった。つまり、この病気に罹患している人はとても多く、そして、この病気が古くから存在する人間にとって普遍的なものであることが分かる。

 

また、腰痛と同じで、この病気についても西洋医学的なアプローチと東洋医学的なアプローチの双方が存在する。例えば、通常のクスリの他に、漢方薬も存在する。

 

そして、私が体験したり勉強したりした範囲で言えば、西洋医学はこの病気に対する根本的な解決策を示していないように思う。例えば、括約筋の機能低下については、老化がその原因だとされる。そして、老化が原因なので、有効な対策は存在しないことなる。また、西洋医学が提示するクスリは、基本的に胃酸の分泌量を抑えることを目的としている。しかし、本当の原因は括約筋の機能低下なのであって、西洋医学はこの問題にアプローチしていない。

 

一方、東洋医学は、この病気を生活習慣病だと位置づける。そして、機能低下を起こした括約筋を再生する方策についてもアプローチしているのだ。それは食事療法であり、姿勢についての指摘であり、呼吸法(複式呼吸)についての提案である。生活習慣の改善について、YouTubeに動画をアップしている多くの人は整体師など、東洋医学のフィールドに位置づけられる方々なのだ。また、複数の専門家が提案しているのは、日記を付けなさい、ということ。すなわち、これは生活習慣病なのであって、生活習慣は千差万別なのだ。従って、どの生活習慣がリスクファクターとなっているのか、それは医師や整体師の側では理解できない。それを分析できるのは、患者本人しかいない、ということなのである。

 

この意見に賛同した私は、早速、日記を始めることにした。その名も「胃酸逆流日誌」。

 

そこへの記載事項は、食事の内容に加え、私が抱える個別のリスクファクター、すなわち、酒、煙草、コーヒーなど、そして胸の痛みが生じたのか否か、生じた場合にはその時間帯について、記載することにした。これをやってみると、なかなか面白い。2週間前はそんな甘いことを考えていたのか、とか、1杯だけであればコーヒーを飲んでも問題ないとか、そんなことが分かってくるのである。

 

因みに、この方法が功を奏したのだと思うが、昨日、胸の痛みは生じなかった。多分、西洋医学が指摘するように、私の括約筋の機能は回復しないだろう。それでも、生活習慣を見直すことによって、あの酷い胸の痛みを回避できれば、それでいい。

 

日々、様々なことを考えているが、私が特に重要だと考えていることを2点だけ記載したい。1つ目は、食後、3時間は横にならない、ということ。飲食をすると胃酸が分泌される。そして私のように括約筋の機能が低下している場合、体を横たえると胃酸が食道への逆流を引き起こすのだ。昔の人は良く「食べてすぐ横になると牛になる」と言っていたが、この言葉が注意を喚起しているのは、正に、食道裂孔ヘルニアのリスクのことなのである。

 

2つ目は、腹八分目ということ。簡単なようであって、これが中々難しい。そもそも、食欲とは人間の生存欲求の根幹をなすものだ。そして、いつでも好きなだけ食べられるという現代の事情は、人類が過去に経験をしたことがないものである。それを意図的に抑制するのが、腹八分目なのだ。適切な食事量は、年令と共に減っていく。私の印象であるが、従来思っていた量の7割位で充分なのである。