文化認識論

(世界を記述する。Since July 2016)

山本太郎と東京都知事選(その5) 野党共闘という欺瞞

現在行われている東京都知事選におきましては、立憲、共産、社民などの野党勢力は宇都宮氏を推薦しており、彼らは山本太郎さんが立候補したことについて「野党共闘の足並みを乱す行為だ」として、陰に陽に強力な批判を加えています。太郎さんを応援している私としては、そこに権力組織の腐臭を感じる訳です。そこで、彼ら、すなわち緊縮左派の野党勢力が持っている欺瞞について、述べておきたいと思います。

 

このブログでは、「緊縮左派」という用語を使って来ましたが、池戸万作氏の用法にならい、今後は「緊縮リベラル」と言うことにします。現在の政治勢力に関する分析としては、池戸氏が以下の動画で説明している図が、適切だと思います。50分ありますが、お時間のある方は、是非、ご覧ください。

 

緊縮リベラルの正体/三橋TV 池戸万作 氏
https://www.youtube.com/watch?v=rjhfAPnkE28

 

簡単に勢力図のサマリーを以下に記します。

 

緊縮リベラル  |  緊縮保守
―――――――――――――――――
反緊縮リベラル |  反緊縮保守

 

区分ごとの主要な政党が、次の通り。

 

緊縮リベラル・・・・立憲、共産、社民
緊縮保守 ・・・・・自民、公明、維新
反緊縮リベラル・・・れいわ新選組
反緊縮保守・・・・・該当なし

 

コロナ禍の影響下にある現状に鑑み、現在、最大の政治的対立軸は「緊縮 対 反緊縮」にある。そして、反緊縮を標榜する政党というのは、左右を見渡してもれいわ新選組しか存在しない。そういう政治状況にある訳です。

 

そもそも太郎さんは、去年の4月にれいわ新選組を旗揚げした時から、全くブレていない。最初から太郎さんは「消費税の廃止」を訴えてきた。但し、緊縮リベラルの政党が「消費税を5%に減税すること」に合意するのであれば、野党共闘に協力する。その場合は、れいわ新選組の旗を降ろしてもいい、とまで言っていたのです。そして、今回の都知事選において、立憲は太郎さんの擁立に動いた。しかし、立憲は「消費税を5%に減税すること」には合意しなかった。だから、太郎さんは野党統一候補として知事選に出馬することを断り、れいわ新選組単独の公認候補として、立候補した訳です。緊縮リベラルから批判される所以など、まったくないのです。

 

これは、何かおかしい。背後に権力の腐った臭いがする。彼らは、何かを守ろうとしている。そう考えると、私には思い当たる節があるのです。緊縮リベラルの主要メンバーには、共通する傾向がある。すなわち、弁護士、(元)官僚、大学教授が多いということ。彼らのメンタリティには、学歴偏重の権威主義が潜んでいると言わざるをえない。

 

そこで、「学歴がなんだ、権威がなんだ、そんなものは関係ねえ!」 ・・・という話を少し書きたいと思うのです。

 

まず、弁護士から。実は私、現役サラリーマン時代には29年程、法務という仕事に就いておりました。勤務先の会社が契約する。訴訟に巻き込まれる。そういう場合に、弁護士とも調整しながら課題の解決に努める。そういう仕事をしていた訳です。この仕事、簡単に言うと、次の3つのステップから成り立ちます。

 

1. 事実認定
2. 法的評価
3. 意思決定

 

これ、テレビでやっている刑事ドラマと、ちょっと似ているのです。最初に原因不明の死体が発見される。するとキャリアの若い検事などは、パターン化して考える。自殺か、他殺か。他殺である場合には、大体、怨恨か物取りということになります。しかし、現実は多様で、そういうパターンに当てはまらない場合が多い。刑事ドラマでは、大体、ノンキャリアのベテラン刑事が想像力を働かせて、過去の事件などとの関連を探っていって、解決する。すなわち、最初の「事実認定」が最も重要な仕事となる訳ですが、現実問題としても、これのできない弁護士がどれだけ多いことか。刑事ドラマにおける若いキャリアの検事と、同じ傾向がある。弁護士は、司法試験に合格しているので、確かに法律はよく知っています。だから、法的評価をやらせれば、それは優れた仕事をする。でも、事実認定ができなければ、仕事にならない。

 

次に(元)官僚。高級官僚というのは、上級国家公務員試験に合格している。この試験、司法試験並みに難関だと言われています。そんな試験に合格した人なのだから、さぞかしりっぱな人だろうということになりがちですが、そんなことはありません。森友学園の件で国会において答弁拒否を繰り返した佐川氏。その前だったか後だったか忘れましたが、財務省事務次官のセクハラ事件というのもありました。確かテレ朝の記者を夜中に呼び出して、こう言った。

 

「手、縛っていい? 縛られていい?」

 

ちょっと待てよ。セクハラ以前の問題として、日本語がおかしいではないか!

 

また、官僚というのは縦割りの社会で生きている。例えば、経産省に務めてきた人は、経産省の仕事が国にとって一番重要だと思っている。また、財務省に長く務めた人は、財務省の仕事の方が重要だと思っている。結局、縦割りなので、全体が見えない。

 

そして、大学教授。大学の先生じゃ、それはりっぱな人に違いない。そう思う人もいるでしょう。確かに、りっぱな人もいるに違いありませんが、全ての大学教授がりっぱである訳ではありません。そもそも彼らは、中学、高校、大学と進学し、その後、大学院に進む。そして、非常勤講師などを経て、最終的に教授の地位に就く訳です。すなわち、彼らは学校の外に出ない。世間を知らない。そういう傾向がある。一体、どれだけの大学教授にコロナで雇い止めにあった非正規やシングルマザーの方々の気持ちが分かるでしょうか。そもそも、学問の世界にも派閥がある。目上の人の説を批判などしていては、自分の出世に響く。例えば、自分が師事している憲法学の教授が護憲派であった場合、下の者が改憲を唱えることは困難だ。してみると、学者というのは正に「経路依存性」に陥った人種だと言える。

 

弁護士、官僚、大学教授と見てきた訳ですが、もちろん彼らの中にもりっぱな人は沢山います。但し、それらの高学歴者の全てが立派な人かと言うと、決してそんなことはない。私は、そう思う訳です。そして、緊縮リベラルという勢力を形成しているのは、これらの学歴や権威に依存している人が多い。大衆を見下し、上から目線で発言する。そんなことで、若い人たちの支持が得られる訳はない。大体、緊縮リベラルというのは、頻繁に講演会や勉強会を開催し、その一部はYouTubeにアップされており、私も、随分見ました。そして、多くの場合、その弁士は弁護士か、官僚出身者か、大学教授なのです。彼らは、決して大衆の声など聞かない。

 

緊縮リベラルは、確かに論理的には優れている一面がある。正しいのかも知れない。しかし、論理的な正しさは、自民党が握っている利権には勝てない。それが現実ではないでしょうか。

 

ここで、NHK世論調査の結果を見てみましょう。

 

NHK世論調査(2020年6月23日)
http://www.nhk.or.jp/senkyo/shijiritsu/

 

政党支持率は、次のようになっています。

 

自民党  32.5%
公明党   4.3%
維新の会  3.8%
   緊縮保守・・・40.6%

 

立憲民主  5.6%
国民民主  0.6%
共産党   1.7%
社民党   0.7%
   緊縮リベラル・・・8.6%

 

れいわ   0.6%
   反緊縮リベラル・・・0.6%

 

支持なし・無回答 49.6%

 

数字をざっくりとまとめますと、「4:1:5」となります。

 

言うまでもなく、緊縮リベラルの野党共闘をしようが、立憲と国民が合併しようが、支持率は1割にしかならない。そんなことで、政権交代を実現できるはずがありません。緊縮リベラルは、内向きだと思います。いくら支援者ばかりを集めて集会を開いても、支持は広がりません。4割を占める緊縮保守に切り込む。そして、5割を占める無党派層に語り掛ける。それができなければ、万年野党に甘んじる他はない。多分、緊縮リベラルを構成している高学歴の人たちは、それでもいいと思っているのだろうと思いますが。彼らは、周囲から「先生」と呼ばれ、本を書けばそこそこ売れる。彼らは、それで満足しており、政権を奪取することなど、考えていない。

 

童話の「桃太郎」を思い出します。

 

貧しい農村があって、そこで人々が暮らしている。ところが、鬼ヶ島から鬼がやって来ては、農作物を略奪し、抵抗すれば暴力を振るわれたりする訳です。現在の緊縮リベラルがやっているのは、農民を集めて、いかに鬼の所業が論理的に間違っているのか、それを講釈するのに似ている。いくら講釈されても、人々は救われない。人々が待ち望んでいるのは、桃太郎の登場なのです。鬼ヶ島へ行って鬼を退治してくれる桃太郎の出現を待ち望んでいるのです。日本一のキビ団子をぶら下げて、サル、イヌ、キジの家来を引き連れて。